テーパー・ローラー式ホイールベアリングの交換方法

テーパー・ローラー式ホイーハブベアリングの交換方法

自動車のハブに使用されるベアリングは、乗用車では剛性やメンテナンスフリー・精度などの関係から、アンギュラ・ボールベアリングが主流です。しかし、現在の2トン以上のトラック・バスのハブやデファレンシャルギヤ、一部の古いクルマのFR車のフロント側にはこのテーパー・ローラー式ホイールハブベアリングが使用されています。このベアリングは定期的なメンテナンスが必要であるので、今回はその方法を紹介します。

テーパー・ローラー式ホイールハブベアリング

ホイールバブベアリングは、ひとつのハブに2個使用することで、ハブにかかる上下方向(ラジアル方向)と左右軸方向(スラスト方向)の力を支えることができるので、フロントやリヤのハブベアリングとして採用されています。このベアリングは、ある程度のメンテナンス技術が無いと逆にトラブルを招くこともあります。この記事では、古いタイプの乗用車のメンテナンス例を記載していますが、FR車のデファレンシャル・ギヤの整備や、当たり前に使われている2トン以上のトラックやバスにも応用が効くと思いますので、是非とも参考にして下さい。

プレロードとは

テーパー・ローラー式ホイールベアリングは、「プレロード」と呼ばれるそのクルマに適正な「与圧」(締付トルク)をかける必要があり、これがいい加減であると、ベアリングの早期摩耗や焼き付くなどの発生を起こします。また、摩耗がひどくなれば、走行不安定になるばかりでなく、最悪の場合、制動不能や車輪のロックなどを引き起こして、大きな事故の原因になってしまいます。

ホイールハブベアリングのガタ

ホイールハブベアリングのガタは、ジャッキアップしてホイールを浮かせて揺さぶってみればわかります。その状態でハブセンターキャップを外して、中のベアリングが変色していたらベアリング交換までが必要です。グリースの色が黒くなっていることが多いのですが、この色はベアリングやベアリングとナットの中に入れるクローワッシャーの摩耗による汚れであるので、グリースだけを交換してもあまり意味はありません。

分解整備の時に、クローワッシャのナット側に叩かれたようなキズがあったなら、それはベアリングに対するプレロード不足によるものか、ベアリング自体が摩耗したものか見極める必要があります。また、グリースの色がどう変化したかも大事です。ベアリングにガタがなく、グリースの色も適正ならば、ガタの発生はないといえますが、自分で整備したもので無いなら、ベアリングの交換は必須であると考えるのが妥当だと思います。

そして、ここのハブに詰めるグリースは、ホイールベアリング用としての指定があるものを使用して、これを適切な量に詰めなければなりません。グリースを入れすぎると、グリース同士が攪拌され、熱を持って過剰に溶け出したり、焼き付きの原因にもなるので注意が必要です。

ホイールハブベアリングのメンテナンス方法

ここでは普通乗用車(FR)を例にとってメンテナンス法の解説をしていきたいと思います。

アウターベアリングの取り出し
  • ベアリングのガタ点検

ジャッキアップした状態で、タイヤの上下、左右をつかんで揺さぶる。大まかなガタがあればここでわかるが、ブレーキを作動させた状態でガタがあれば、ベアリングのガタである可能性は高いです。またベアリングキャップは再利用した方がいいので、傷を付けないようにハンマーとマイナスドライバーで外します。また、「ハブキャッププライヤー」という特殊工具を使うと作業がスムーズです。

  • ベアリングの取り出し

ベアリングキャップを外したら、ニッパーもしくはプライヤ等で割ピンを抜き、ナットにはまっているロックキャップを緩めて取りましょう。このときできれば、グリスを掃除した後ナットを緩める前に軸とナットの位置を覚えておくために印しを付けておくといいでしょう、それから、ナットはプライヤー程度で緩められますが、ナットの締まり具合を手の感覚で覚えておけるようにしておくのが理想です。

インナーベアリングの取り出し

フロントベアリングを取り出すと、ハブを引き出すことができます。手の力でも取れますが、プーラーなどでゆっくり引き出してもいいです。ハブの内側にオイルシールがたたき込まれているのでこれをマイナスドライバーか専用のオイルシールプーラーでこじり出します。
オイルシールを外すと、インナーベアリングを取り出すことができます。ベアリングを取り出したら残っている古いグリースを掻き出しましょう。


 

アウターレースの入れ替え

アウターレースを叩き出す

ベアリングのハウジングとなっているアウターレースは、フラットポンチを当てて内側から叩き出します。車両によっては叩き出す位置となる凹みが設けられているタイプもあります。アウターレースはひとつのハブに2つあるので、内側と外側のアウターレースを叩き出します。再利用はできません。





 

 

新しいアウターレースを入れる

新しいアウターレースを叩き込むときは、直接ベアリングを叩かず、平らな当て物を置いてその上から叩くと打ち込みやすいです。また、打ち込みは一気にやらずに少しずつ指の腹で周囲を確認しながら均等に打ち込んでいって下さい。平らな当て物で面位置まで叩いたら、フラットポンチやたがねドライバーなどで少しずつ均等に奥まで叩き込んで下さい。打ち込みが完了すると、カンカンという響きの違う音になります。

 

グリースを詰める

ハブ内部のベアリンググリース

両側のアウターレースに打ち込んだら、ハブの内部にベアリンググリースを詰めます。メーカーによっては指定があるので修理所などを参考にして適切なものを使用して下さい。グリースは入れすぎに注意します。目安としては2つのアウターレース間の凹みからスピンドルの当たる面位置くらいが適切でしょう。

ベアリングにグリースを詰める

ベアリングにグリースを詰める場合には、手のひらにグリースを適量のせ、反対の手でそのグリースをこすり取るようにして下さい。このとき、グリースをのせる手のひらは利き手の反対の手にのせるようにして下さい。そうしないと力が入りません。

グリースを詰めたベアリングを入れる

まず最初に内側のベアリングから入れて下さい。その上からオイルシールを叩き込み、初期潤滑としてオイルシールのリップ部分に潤滑用のグリースを塗布して下さい。ハブを押し込む前に、スピンドルの清掃を行って、古いグリースを清掃した後、ハブを定位置に押し込んで外側のベアリングとワッシャをいれて、ロックナットをセットして下さい。

ロックナットの締め付け

プレロード調整

ロックナットの締め付けは、最初にベアリングの姿勢を落ち着かせるために3kgmのトルクで締めながら、ハブを数回転させる。次に一旦緩めた後、今度はハブを回転させながら、再び3kgmのトルクで締め付け、その状態を保ったまま4分の1回転緩める。

注意:締付トルクは車両によって異なります。

  • プレロードとは

仮にベアリングに「荷重を与える」ということであり、軸に対して適切な姿勢位置に取り付けられたホイールハブベアリングにかかるラジアル方向とスラスト方向。すなわち、ベアリングの軸にかかる車両の垂直方向と水平方向の荷重を仮に与えた状態にするということを「プレロードを与える」という。

 

回転トルクを図りながら締める

次にバネばかりを使用し、ハブボルトを中心方向から直角に引いたとき動き出す瞬間の荷重が、1050gとなるようにロックナットを少しずつ締める。この作業を数回繰り返して確認する。

注意:動き出す瞬間のの荷重の値は車両によって異なります。

最終工程

プレロードの調整が終了したら、ロックキャップ取り付け、割ピンセット、ハブキャップグリスアップ・取り付けを行います。そこまで終わったら、最後にブレーキ周りを組み付けホイールを取り付けます。このとき、ハブがスムーズに回転するか、ガタがないかを最終確認して下さい。以上で完了となります。

 

 

 

ホイールハブベアリングのメンテナンス方法は他にもいろんな方法があり、扱う車両や整備士によってまちまちであるので、一概には言えないのですが、通常のベアリングのように締め付けトルクの管理が少し難しいことと、ある程度の走行距離ごとにベアリンググリス交換などのメンテナンスが必要になってきます。近年の普通乗用車ではこの方式はほとんど採用されていませんが、トラックやバスの整備ではこれができないとお話になりません。また、LSDなどデファレンシャル・ギヤのメンテナンスにもこの「プレロード調整」というメンテナンスは必要不可欠ですので、これを機会に整備技術のひとつとして習得しておくといいと思いますよ。





 

 

テーパー・ローラー式ホイールベアリングの交換方法” への1件のフィードバック

  1.  大変参考になりました。
     走行時、右側前輪ホイールが路面の凹凸で「ガツン」とショック音が出て、長い間苦労しています。
     テーパーローラー軸受タイプですが修理業者へ依頼してベアリング交換、グリス交換等再三行いますが治らず、
     締め付けトルクを通常より強めに締めていますが長く持たず困っています、締め付けた状態でシャフトとベアリン
     ローラに隙間が生じていると思いますが、修理の方法についてお知らせください、よろしくお願い。
     ロードトレック(ダッジラム・キャンピングカー) 年式2000年型 走行距離 12万キロ 車体重量 3120㎏

寺田 弘招 へ返信する コメントをキャンセル

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