コモンレール式高圧燃料噴射装置

コモンレール式高圧燃料噴射装置

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ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンに比べて空気過剰の希薄燃焼を行うことが多く、その結果COとHCの排出は非常に少ないが、NOxとPM(粒子状物質)の排出が多い。これらの問題に対処するためには、燃焼状態の改善と燃焼時間の短縮が必要であり、燃料の微粒化を促すために燃料噴射圧力を高めることが効果的である。この解決策として、高圧燃料噴射装置を使用した燃料供給システムが主流になっている。

 

コモンレール式高圧燃料噴射装置は、ディーゼルエンジンの燃料供給システムの一種で、燃料を高圧で蓄える共通のレール(配管)を用いてエンジンの各シリンダーに燃料を噴射する技術である。このシステムでは、燃料はまず高圧ポンプによって圧縮され、その後、共通レール内で一定の高圧を維持しながら各噴射ノズルへと送られる。コモンレールの使用により、エンジンの運転条件に応じて噴射圧力、噴射タイミング、そして噴射量を精密に制御することを可能としている

 

この精密な燃料噴射制御により、燃焼効率の向上、排出ガスの削減、そしてエンジン性能の最適化が実現する。NOxやPMなどの排出物質を減少させることができるため、環境規制に対応しつつ、燃費の改善やパワーの向上を図ることが可能になる。コモンレール式高圧燃料噴射装置は、その高い柔軟性と効率の良さから、現代のディーゼルエンジンにおいて広く採用されている。

 

目次

コモンレール式高圧燃料噴射装置とその特徴

以下にコモンレール式高圧燃料噴射装置の概略図を示す。

 

図1:コモンレール式高圧燃料噴射装置

図1:コモンレール式高圧燃料噴射装置

 

コモンレール式高圧燃料噴射装置の仕組みを大まかに説明するとは、図1に示すようにフューエル・タンク内の燃料がサプライ・ポンプと一体のフィードポンプによって吸い上げられた後にフューエルフィルタでゴミがろ過され、サプライ・ポンプに送られる。

 

次に、サプライ・ポンプに送られた燃料は, サプライ・ポンプ内のプランジャによって高圧にされコモンレールヘ圧送される。その後, インジェクタヘ送られエレクトロニック・コントロール・ユニット(以下. ECU という。)の信号によって燃焼室内に噴射される。

 

なお、サプライ・ポンプ内の圧力が規定値以上になった場合には、オーバフロー・バルプが開き、また、コモンレール内の圧力が規定値以上になった場合にはプレッシャ・リミッタが開いて、圧力が規定値以上にならないように燃料をフューエル・タンクに戻す構造となっている。

 

また、インジェクタからリークした燃料もフューエルタンクに戻されるようになっている。

 

コモンレール式高圧燃料噴射装置の特徴
  • 従来の機械式燃料噴射装置では、インジェクションノズルの最大噴射圧力がエンジン回転速度やエンジン負荷の影響を受け、全回転域にわたって良好な噴射圧力を得ることが難しかったが、コモンレール式燃料噴射装置では、高圧化された燃料をコモンレールに蓄えることが出来るので、常に安定した噴射圧力を確保することができる。
  • 機械式燃料噴射装置と比べ、燃料の噴射量や噴射時期をECUに演算させることで、きめ細かいコントロールが可能になる。
  • 燃料噴射を多段階に分割することができることと、ECUによる噴射時期の最適なコントロールにより、エンジンからの振動や騒音を低減することができ、また、黒煙やNOxの排出量を抑制することができる。

 

サプライポンプ

  • サプライポンプとは
サプライ・ポンプはコモンレール内の燃料圧力を生成するもので, 図2-(1)のように. 燃料吐出量をサプライポンプのプランジャ上昇時に吐出量制御量バルブにより行う吐出量制御式と, 図(2) のようにプランジャ下降時に吸入量制御バルプにより行う吸入調量式とがある。

 

図2:サプライポンプにおける吐出量制御式と吸入調量式のバルブ配置の違い

図2:サプライポンプにおける吐出量制御式と吸入調量式のバルブ配置の違い

 

  • プライポンプ本体
サプライポンプ本体は、プランジャ、カムシャフト、フィード・ポンプ及び吐出量又は吸入量制御バ
ルプなどで構成され、図3のように、プランジャが直列に並んだバーチカル式のほか、カムシャフトに対して垂直で放射状にプランジャが配置されたラジアル式とがある。

 

図3:バーチカル式サプライポンプ

図3:バーチカル式サプライポンプ

 

1.フィードポンプ
フィードポンプの種類にはトロコイド式ギヤ式ベーン式とがあるが何れもサプライ・ポンプに内蔵されており、エンジン本体からギヤなどを介してポンプ内蔵のカムシャフトによって駆動され、燃料をフューエル・タンクより吸い上げ、燃料フィルタを介してサプライ・ポンプ内部の圧送部へと送り込んでいる。

 

2.吐出量制御バルブ
吐出量制御式のサプライ・ポンプで用いられる吐出量制御バルプはコモンレール内の圧力を調整するものでサプライポンプからの吐出量を吐出量制御バルプのON· OFFにより制御している。

 

図4:吐出量制御バルブ

図4:吐出量制御バルブ

 

吐出量制御バルブの作動
図5:吐出量制御バルブの作動

図5:吐出量制御バルブの作動

 

図5(1):吐出量制御バルブの作動(吸入行程)

図5(1):吐出量制御バルブの作動(吸入行程)

  • 吸入工程
図5(1)のようにプランジャの下降行程では吐出量制御バルブはOFF(開)しており、吐出量制御バルプを経由して低圧の燃料が圧送部(プランジャ室)に吸入される。

 

図5(2):吐出量制御バルブの作動(無圧送行程)

図5(2):吐出量制御バルブの作動(無圧送行程)

  • 無圧送行程(プリストローク)
図5(2)のようにプランジャが上昇行程に入っても、吐出量制御バルプがOFF(バルブ開)している間は、吸入した燃料は吐出量制御バルプを経て昇圧されることなくリターンされる。

 

図5(3):吐出量制御バルブの作動(圧送行程)

図5(3):吐出量制御バルブの作動(圧送行程)

  • 圧送行程
図のように必要吐出量に見合ったタイミングで吐出量制御バルプがON(閉)すると、リターン通路が断たれプランジャ室内が昇圧される。(圧力が上がる)

 

3.吸入量制御バルブ
吸入調量式のサプライポンプで用いられる吸入量制御バルプは、コモンレールの圧力を調整するもので圧送部(プランジャ室)に送られる燃料の量をデューティ比制御によりリニアに調整し、サプライポンプからのコモンレールヘの吐出量を制御している。
図6:吸入量制御バルブの作動

図6:吸入量制御バルブの作動

 

デューティー比について
デューティー比は、一定周期内で信号が「ON」状態にある時間の割合をパーセンテージで表したものである。0%は常にOFF、100%は常にONを意味しており、電力制御や信号処理などで用いられる場合が多い

 

吸入量制御バルブの作動
吸入量制御バルプはデューティ比制御で駆動され、サプライ・ポンプ総油量は無通電時(デューティ0%)が11とも多くなり、デューティ比が人きくなるほど(100%に近づくと)少なくなる。

 

図6(1):最大送油(デューティー比:0%)

図6(1):最大送油(デューティー比:0%)

  • 最大送油量
無通電時は図6(1)のようにニードルバルプとピストンバルプはスプリングによって押されているので吸入ポートと排出ポートが導通している。このため、フィード・ポンプで圧送された燃料は全量プランジャ室へ吸入される。

 

図6(2):中間送油(デューティ比:0%~99%)

図6(2):中間送油(デューティ比:0%~99%)

  • 中間領域
図6(2)のようにECUからの駆動デューティ比が増えるとニードル・バルプは上昇を始めるので、ピストンバルプは吸入ポートと排出ポートの通路面積を絞ることから、プランジャ室への吸入量が減少する。

 

図6(3):無圧送(デューティ比:100%)

図6(3):無圧送(デューティ比:100%)

  • 無圧送
図6(3)のようにさらに駆動デューティ比が増えニードルバルプが上昇すると、ピストンバルブのスリット部が閉塞するため無圧送となる。

 

図7:吸入量特性

図7:吸入量特性

 

図7は、吸入量特性を示している。

 

 

コモンレール

コモンレールシステムは、サプライポンプによって高圧化された燃料を蓄積し、それを各シリンダーのインジェクターへ配分する機能を持つ。このシステムの燃料圧力は、コモンレールに設置された圧力センサーで検出される。エンジンの回転速度と注入される燃料量に応じて、予め設定された圧力値と実際の圧力値が一致するように、ECUが圧力フィードバック制御を行う。

 

さらに、コモンレールには、フロー・ダンパー、プレッシャーリミッター、およびコモンレール圧力センサーが装着されている。これは図8で示されている通りである。

 

図8:コモンレール

図8:コモンレール

 

フローダンパ
フロー・ダンパは主に大型車用のエンジンに用いられ、図9のようにピストン、スプリング,ボデー及びストッバにより構成されており、フロー・ダンパはコモンレールに掛かる圧力脈動を減衰している。

 

図9:フローダンパ

図9:フローダンパ

 

作動
図10(1):フローダンパの作動

図10(1):フローダンパの作動

  • 通常時
通常時は図10(1)のように燃料の流れによってピストンが図の右方向に少し移動して浮いた状態になっているため、スプリングカによって脈動を減衰している。(バランスをとっている)

 

  • 異常時
万ー、フロー・ダンパより先で燃料漏れが発生した場合フロー・ダンパに過剰な燃料が通過す
ることになるため、図10(1)の状態から図10(2)のようにピストンが移動することで先端が本体
シート面に当たり燃料通路を遮断するようになっている。

 

プレッシャリミッタ
図11:プレッシャリミッタ

図11:プレッシャリミッタ

 

図11のプレッシャリミッタは、コモンレール何の圧力が何らかの原因で異常になったときに開弁作動し、燃料をフューエルタンクに逃がすことで圧力を調整する役割を持っている。

 

図12:プレッシャリミッタ作動特性

図12:プレッシャリミッタ作動特性

 

図12は、プレッシャリミッタの作動特性を示したもので、コモンレール内圧力が上昇して開弁規定値になるとプレッシャリミッタが開弁して燃料がフューエルタンクへとリターンし、コモンレールの圧力が下がり始める。しかし、本来閉弁規定値になって閉弁するはずが、図ではコモンレール内圧力が閉弁規定値を超えた時点で閉弁している。

 

このような性質をヒステリシスといい、プレッシャリミッタの作動は、ヒステリシス性質を持っていると説明できる。

 

  • ヒステリシス
ヒステリシスは、ある物理系やシステムが外部からの力や条件の変化に対して遅れて反応する現象のことを指します。具体的には、ある状態から別の状態への変化と、その逆の変化が起こる際に、完全に同じ経路で変化しない性質のこと。

 

 

インジェクタ

インジェクタは、コモンレールから分配されてきた高圧燃料をECUからの電気信号により作動させ、微細な噴霧状態にして燃焼室へ直接噴射する。

 

ECUは、エンジンの状態や走行状態を感知する各センサから入力されたデータ(電気信号)から、その都度最適な噴射時期、噴射量、噴射率を演算し、その結果を電気信号としてインジェクタへと送る。

 

インジェクタの種類にはソレノイド式とピエゾ式とがあるが、ここではソレノイド式のインジェクタについて解説する。

 

図13:ソレノイド式インジェクタ

図13:ソレノイド式インジェクタ

 

図13から、インジェクタはノズル部、ノズルスプリング、コマンドピストン、制御室、オリフィス、ソレノイドバルブなどから構成され、エンジンの各気筒へと取り付けられている。

 

ソレノイドバルブは、制御室の圧力を制御することにより噴射量、噴射時期、噴射率をコントロールする。

 

ノズル噴孔は多孔式で、インジェクタボデーはクランプで抑える方式が多く採用され、シリンダヘッドのインジェクタ挿入部分にはOリングを設けてシリンダヘッドのインジェクタ取付穴へのエンジンオイル侵入を防止する構造となっている。

 

インジェクタの作動
図14:インジェクタの作動

図14:インジェクタの作動

 

  • 無噴射
図14(1)において、ソレノイドコイルへの通電が行われない状態の下ではバルブはバルブスプリングの力によりオリフィスを閉じるので、コモンレールからの高圧燃料はそれと同じ圧力がかかった状態で制御室とノズル室へ流入する。

 

このとき、制御室のコマンドピストンの断面積(内径)は、ノズルニードルの断面積(内径)よりも大きいので、受圧面積の関係から(同じ圧力の下では受ける面積が大きい方が圧力が高くなる。)、コマンドピストンにかかる力ががノズルニードルを押し下げる方向へと働き、噴孔は閉じて、燃料噴射は行われない。

 

  • 噴射
図14(2)において、ソレノイドコイルに通電が開始されると電磁力が発生し、バルブはスプリングの力に打ち勝って引き上げられる方向に動きオリフィスが開く。

 

これにより制御室の燃料は徐々に流出し制御室の圧力が下がり、ノズルニードル下面にかかっていた圧力よりも下がると、その圧力差により、ノズルニードルが上昇して燃料噴射が開始される。

 

  • 噴射終了
ソレノイドコイルへの通電を停止すると、バルブはバルブスプリングの力により下降し始め閉じる。このとき、コモンレールの高圧燃料が再び制御室とノズル室へと流れ込むことにより、ノズルニードルが急激に下降して、図14(1)の状態へと戻って噴孔を閉じ燃料噴射が終了する。

 

 

センサ

センサ類は、エンジンのの運転状態や車両操作状態を検出する。検出された情報は電気信号に変換されECUへと入力される。

 

ここでは、コモンレール式高圧燃料噴射装置の制御に使われるセンサについて解説する。

 

センサの目次
1.エアフロメータ
エアフロメータは、エアクリーナとインレットマニホールドの間に取り付けられており、エンジンの吸入空気量を電気信号として検出し、ECUへと入力する役割を持つセンサである。

 

ECUではこの電気信号によって吸入空気量が計算され、燃料噴射量、EGRなどの制御に用いられている。

 

図15:熱線式エアフロメータ

図15:熱線式エアフロメータ

 

エアフロメータには、一般的に「熱線式」が用いられている。

 

図15より、熱線式エアフロメータは吸気通路の途中に設けられていて、数百度の一定温度で作用する発熱抵抗体(熱線)と温度補償抵抗体によって構成されている。

 

  • 吸入空気量の電気信号検出
図15より、エアフロメータが吸入空気の一部をバイパス流として取り入れ、このバイパス流がセンサ内の発熱抵抗体(熱線)を冷却することで行う。

 

その仕組みとしては、発熱抵抗体を冷却するバイパス流(吸入空気量)の量の変化によって、冷却の度合いが変化し、結果として、発熱抵抗体の電気抵抗値が変化するようになる。

 

これにより、エアフロメータ全体の回路に流れる電流の変動値を電気信号への変換に応用している。

 

  • 発熱抵抗体(熱線)
発熱抵抗体では、温度と抵抗は比例の関係にある。つまり、温度が低いと電気抵抗値が小さく、温度が高いと抵抗値は高くなる。ここでの温度は、吸入空気の温度ではなく、発熱抵抗体そのものの温度を指す。

 

したがって、吸入空気量が少ない場合は、発熱抵抗体の放熱量は少なく(発熱抵抗体の温度が高い)、電気抵抗が大きくなるので、オームの法則より同じ電圧の下では回路の電流は少なくなる。

 

逆に、吸入空気量が多い場合には、発熱抵抗体の放熱量が多く(発熱抵抗体の温度が低くなる)、電気抵抗が小さくなるので、再びオームの法則から、同じ電圧の下での回路の電流は大きくなる。

 

この電気信号からの電流の変化からECUは、電圧の変化に変換して吸入空気量として検知するようになっている。

 

図16:熱線式エアフロメータ回路図

図16:熱線式エアフロメータ回路図

 

図16は、エアフロメータ内の回路である。吸入空気量が変化したときには、4つの抵抗を接続したブリッジ回路により、発熱抵抗体(R1)と温度補償抵抗体(R2)との温度差を常に一定に保つように発熱抵抗体(R1)への電流を制御している。

 

発熱抵抗体と温度補償抵抗体
回路の例として、吸入空気量が増えた場合、発熱抵抗体(R1)の抵抗値が小さくなるので、

 

R1 * R4 < R2 * R3 となり、VM ≠ VK となる…➀

 

ただし、VMとVKはその時点での抵抗値である。

 

図16の制御部はこの状態を検出すると、電源からVBに流れる電流を増加して(R1を加熱)

 

R1 * R4 = R2 * R3 つまり、VM = VK となるように制御する。…➁

 

温度補償抵抗体(R2)は、この回路において、VMとVKの抵抗値の比較のために設けてある抵抗体で、➀のように、発熱抵抗体(R1)との電気抵抗を比較して➁の結果となるような制御を可能にすることで、測定精度を上げる働きをしている。

 

 

 

2.ブースト圧センサ
ブースト圧センサは、吸気管内の圧力を検出することでターボチャージャーによる過給圧を検知するものである。

 

図17に示すブースト圧センサにおいて、吸気管内の圧力上昇により、センサユニット内のシリコンチップに圧力が加わると、シリコンチップの抵抗値が変化する。

 

図17:ブースト圧センサ

図17:ブースト圧センサ

 

図18:回路図

図18:回路図

 

図19:出力電圧特性

図19:出力電圧特性

 

図18は、ブースト圧センサの回路図である。図19は、ブースト圧センサの出力電圧特性を示している。

 

ブースト圧センサは、図18の回路図において、真空に保たれたセンサユニット内に、4つの可変抵抗によって構成されたブリッジ回路が設けられており、その片面に吸気管からの圧力が作用する構造になっている。

 

このセンサに圧力が作用すると、シリコンチップは、反対側の真空室との圧力差によって生じた応力を受けて4つの抵抗値が変化する。

 

この抵抗変化による電位差をICで増幅して、ECUに電気信号として入力する。

 

入力された電気信号は、A/D変換器によりデジタル信号へと変換され、ECU内のマイクロコンピュータへと入力され、演算される仕組みとなっている。

 

ここで、図19は、ブースト圧センサの出力電圧特性を示している。この特性は、吸気管内の圧力が増加に比例して、出力電圧も増加するすることを示している。

 

 

3.温度センサ
温度センサには、吸入空気温度を検出する吸気温センサ、エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温センサ、燃料温度(軽油)検出する燃料温センサなどがある。

 

これらのセンサの構造はほぼ同じになるため、ここでは水温センサを例に解説する。

 

図20:水温センサ

図20:水温センサ

 

図21:回路図

図21:回路図

 

図22:特性図

図22:特性図

 

水温センサは、図20のように内部にサーミスタが組み込まれており、図21に示す回路図のようにECUと接続されている。

 

この回路は、サーミスタが受ける温度の変化を抵抗値の変化に置き換え、ECU内部のマイコンが検出できるように電圧値の変化に置き換えたものである。

 

図21でECU内のマイコンは、図で示すA点の電圧、すなわち、抵抗と水温センサの抵抗によって5Vが分圧された電圧を検出している。

 

また、図22は、サーミスタが受けた温度の抵抗値変化とその時の電圧値を表したものである。

 

 

4.回転センサ
回転センサには、エンジンの回転速度およびクランク位置を検出するクランク角センサ、カムシャフトの回転速度を検出するカムセンサ、燃料噴射タイミングをコントロールするためのピストンの圧縮上死点位置にある気筒を検出するTDCセンサなどがある。

 

これら各センサの構造はほぼ同じであるため、ここではクランク角センサを例に解説する。

 

クランク角センサは、フライホイールハウジングあるいはクランクシャフトタイミングギヤ部に取り付けられており、図23より、センサの種類にはピックアップコイル式、磁気抵抗素子式などがある。

 

ピックアップコイル式はマグネット(永久磁石)、磁気抵抗素子内臓ICから構成されている。

 

図23:クランク角センサ

図23:クランク角センサ

 

ピックアップコイル式の作動
エンジンが回転すると、図24に示すシグナルローターが回転し、このシグナルローターの突起部がマグネットによって生成される磁界を通過すると、シグナルローターとコアとの間隔が変化するので、ピックアップコイルを通る磁力線の量が変化し、ピックアップコイルに交流電圧が発生する。

 

この交流電圧を信号としてECUに入力することで、ECUは図25のようにこのアナログ波形による信号を波形整形回路によってデジタル波形に変換する。

 

図24:信号の発生原理

図24:信号の発生原理

 

図25:波形整形回路

図25:波形整形回路

 

磁気抵抗素子式の作動
図26(1)のように、磁気抵抗素子の前面にシグナルローターの突起部があるときは、マグネットから出た磁束が磁気抵抗素子を通るため磁気抵抗素子の抵抗値が増加する。

 

一方で、図26(2)のように、シグナルローターの突起部がないときは、マグネットから出た磁束が磁気抵抗素子を通らないため、磁気抵抗素子の抵抗値が減少する。

 

この抵抗値の変化により、クランク角センサに印加されている電圧も変化するので、その電圧変化を内部のICにて図26(3)のようにデジタル信号に変換してECUに入力する。

 

図26:信号の発生原理

図26:信号の発生原理

 

 

5.アクセルポジションセンサ
アクセルポジションセンサは、図27のようにアクセルペダル部に取り付けられており、アクセルペダルの踏み込み角度を電気信号に置き換えてECUに入力する。

 

アクセルポジションセンサは種類として接点式とホール素子式があるが、ここではホール素子式を例に解説する。

 

図27:アクセルポジションセンサ

図27:アクセルポジションセンサ

 

ホール素子式の作動
ホール素子式のアクセルポジションセンサでは。図28のようにアクセルポジションセンサのケース内に固定されているステータ、ホールIC(2個)およびアクセルペダルと共に動くマグネット、ヨークなどから構成されている。

 

アクセルペダルの踏み込み角度の検出には「ホール効果」を利用している。

 

図28:内部構成

図28:内部構成

 

ホール効果
図29:ホール効果の原理

図29:ホール効果の原理

 

ホール効果とは、図29に示すように、電流が流れているときはホール素子へ、その電流に対して垂直方向に磁束を加えると、電流と磁束の両方に起電力が発生する現象をいい、加わる磁束密度が大きくなると起電力も大きくなる。

 

また、ホール素子と信号を増幅するためのアンプを組み合わせたものがホールICである。

 

アクセルポジションセンサの作動
図30:アクセルポジションセンサの作動

図30:アクセルポジションセンサの作動

 

図31:出力電圧特性図

図31:出力電圧特性図

 

アクセルポジションセンサの作動は、図30(1)のように、ペダルを踏んでいないときは、ホール素子に流れる電流に対して垂直方向の磁束が加わらないため起電力は発生しない。

 

図30(2)のようにアクセルペダルが踏み込まれると、ステータに加わる磁束の角度が変化し、ホール素子にも垂直方向の磁束が加わる。それにより、ホール素子に起電力が発生し、センサ電圧が図31のように上昇する。

 

なお、検出回路は万一の故障時にも対応できるように2系統となっている。

 

6.コモンレール式圧力センサ
図32に示すコモンレール圧力センサは、コモンレール内の燃料圧力を検出するセンサである。

 

ブースト圧センサと同じ構造をしていて、内部のひずみ検出部に圧力が加わると、電気抵抗が変化する半導体センサである。

 

図32:コモンレール圧力センサ

図32:コモンレール圧力センサ

 

図33:出力電圧特性

図33:出力電圧特性

 

図33は、コモンレール圧力センサにおける出力電ある特性を示したものである。

 

 

 

ECU(Electronic Control Unit)

ECUは、各センサ、スイッチ類からの情報を処理し、インジェクタ、サプライポンプおよび各リレーなどを制御するとともに自己診断システムを備えている。

 

自己診断システムは、万一の異常発生時に運転者や整備者に異常を知らせる機能や、出来るだけエンジン性能や機能に影響が出ないように制御を継続するフェイルセーフ機能およびバックアップ機能を搭載している。

 

また、故障したときの車両の状態を記憶する機能を持っている。

 

図34に示すように、ECUは、演算処理を行うCPUと、データ記憶部からなるRAM、ROMおよびデータ入出力回路部などから構成されるデジタル制御方式が採用されている。

 

図34:ECU

図34:ECU

 

噴射量制御
噴射量制御とは、インジェクションポンプで用いられているガバナ機能に代わるもので、基本的にエンジン回転速度とアクセル開度の信号をもとに、最適な噴射量となるようにインジェクタを制御するものである。

 

噴射圧力制御(コモンレール圧力制御)
噴射圧力制御とは、コモンレール内の燃料圧力を制御するもので、コモンレール圧力センサの値がエンジン回転速度、噴射量から算出される目標値に等しくなるようにECUが圧力フィードバック制御を行い、サプライポンプの吐出量を調整することでコモンレール内の圧力を制御している。

 

噴射時期制御
噴射時期制御は、インジェクションポンプで用いられるタイマの機能に代わるもので、基本的にはエンジン回転速度と噴射量から最適な時期になるようにインジェクタを制御する。

 

噴射率制御(分割噴射制御)
噴射圧力の高圧化及びインジェクタの高応答化により、自由な噴射タイミングで噴射することが可能になったため、1サイクル間に必要とする燃料を、図35のように運転状態に応じてメーン噴射の前後にも分けて噴射することにより、排出ガス改善や燃焼騒音低減などを可能にしている。

 

図35:分割噴射

図35:分割噴射

 

図35より、各噴射の概要は以下のとおりである。

 

    • パイロット噴射
メーン噴射に対して大きく進角した時期に噴射し、噴射した燃料と空気があらかじめ混合した状態で燃焼させることにより急激な燃焼圧力の上昇を抑えられるため、燃焼騒音の低減や燃焼安定性の向上に寄与する。また、ドライバビリティの向上やPMの低減にも寄与する。

 

    • プレ噴射
メーン噴射に先立ち噴射することで、メーン噴射の着火遅れ短縮により、NOx、燃焼騒音を低減する効果がある。

 

    • アフタ噴射
メーン噴射に近接した時期に噴射することで、拡散燃焼を活発化させたメーン噴射により発生したPMを低減すると同時に、排気ガス温度が上昇するための触媒の活性化や排気ガス後処理装置の効率向上に寄与する。

 

    • ポスト噴射
メーン噴射に対して大きく遅角したタイミングで噴射することで、排気ガスの温度上昇や還元成分の供給により触媒の活性化や排気ガス後処理装置の作動による補助ができる。

 

 

気筒毎噴射量補正制御
気筒毎噴射量補正制御は、各気筒の燃焼状態のばらつきに起因する回転変動を回転センサにより検出し、気筒間の噴射量補正を行うことで、回転変動を低減させている。

 

 

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