トヨタ・クラウン・タイミングベルトズレによるパワー不足

85年式トヨタ・クラウン 型式:E-GS120 エンジン型式:1G-EU(ガソリンエンジン) トランスミッション:4AT 走行距離:22,000km

車検依頼で入庫。ちなみに年平均走行距離は1,400km/年である。

過去の整備履歴より、年間の走行距離が1,500km程度なので、エンジンオイル交換は2年に1回、Vベルトなどのエンジン補機ベルト類などは経年劣化などを考慮して5年ごとくらいに交換しているのだが、ユーザー曰く「なるべく安く上げて欲しい。」とのこと。それでも「最低でも、ブレーキ類の点検とブレーキフルード、エンジンオイル、オイルエレメントの交換はされた方がいいですよ。」とアドバイスした。

年間走行距離が少ないとはいえ、2年間一度も交換されていない油脂類は漏れていないとしても、その成分がどれほど役割を果たしているかは疑わしい。酸化作用によって成分が変質してしまっている可能性もあることを説明し、上記の車検整備内容で了承して頂いた。

代車に乗ったユーザーが帰り際に「そういえば、この頃なんとなくパワーが無いようなので、それも見ておいてくれ」と言われた。

少し驚いてしまった。85年式の古い車に、今更”パワーが無くなった”と簡単にいわれても…、それ以前に車検は安く上げてくれといわれていたので困ってしまった。これはエンストするとか、エンジン始動しないなどのトラブルと違い、ユーザー本人にしかわからない感覚のレベルでの話である。しかし逆に、「みておきましたが、こんなものですよ。」と言ってしまえば、車自体は問題なく走行できているのでそれで済む位のレベルのことだが…。





試運転にでると、なんとなくエンジンの吹けが悪いような気がする。アイドリングは安定しているし、ATミッションのシフトアップも問題が無いが、なんとなく重たい感じがする。アクセルを踏み込むとそれなりに走るのだが、この1G系のエンジン特徴である低速域での太いトルク感がない。ユーザーが言われていたのは恐らくこのことだろうと思われる。

取り敢えず整備作業に入り、ダイアグノーシスを点灯させてみることにしたが、このタイプはTーE1短絡ではなく、昔の黄色い4極カプラであり、あまりに古いためダイアグノーシスの資料は入手することが出来なかった。

それでも一応、エンジン故障時にはインパネモニター内にエンジンチェックランプが点灯するように設定されているので、それが点灯したかどうかをユーザーに問い合わせてみたところ、点灯したことはなかったというとのこと。ということはECUおよび他の電気系統のセンサやアクチュエータ類は正常だと考えられる。

内燃機関の基本である3要素(圧縮・火花・燃料)の点検をしてみることにした。点検するにしても順序を考えて、段取りよくしていかないと時間と手間ばかりがかかってしまう。

 

 

まず燃料系から取りかかることにした。パーショナルダンパの上がる具合からみても正常だろうが、念のため燃圧計を取り付けて燃圧を測ってみるが正常値だ。

 

次は圧縮であるが、エンジンの掛かり具合や走行距離数からみても圧縮抜けなど大丈夫だろうが、スパークプラグの点検の時についでに計測してみたがやはり問題が無い。

 

点火系(火花)においてはスパークプラグは交換したかったが、なるべく安くと言うことだったので、目視点検して異常が無かったので清掃して再度組み付ける。プラグコードの導通も正常値なので、点火タイミング(バルブタイミング)を点検することにしたが、何と点検に使うタイミングタイトが故障してしまっていた。

 

そのため取り敢えず、バルブタイミングの「ずれ」をみてみることにした。この1Gエンジンはタイミングカバーのアッパーカバーのみ外れるため、点検は簡単である。クランクプーリとカムシャフトの位置を見てみると、一山ほどのずれがあるというか、カタカタと遊びがある。なおかつ、タイミングベルトを触るとなんと手前に脱け出てきた。通常ならば、新品のベルトに交換するときは、テンショナーを一杯に緩めた状態でも、硬く入りにくいはずのベルトだ。それが脱け出て動くということはよほど緩んでいると言う証拠である。

タイミングベルトカバーにあるテンショナー調整ボルトの密閉栓を外し、ボルトを緩め、タイミングベルトの張りを調整し直す。すると、遊びはなくなり、ズレもなくなった。そのままの状態で試運転してみると、明らかにフィーリングが変わり、エンジンは軽快に吹け上がるようになった。

 

全ての車検整備が終わり、納車した後日、ユーザーより「パワーがよみがえった感じだ。車検を任せてよかった。」とお褒めの言葉を頂いた。

実際は車検したからよくなったのではなく、バルブタイミングのズレが原因の点火タイミングの狂いである。点火系がポイント式のデストリビュータが主流だった時代には当然のように行っていた点火タイミングの点検だったが、現在のフルトランジスタ式の点火系ではプラグコードなどは存在せず。タイミングライトではなく特殊な機器がないと点検できないことが当たり前なのだが、同じガソリンエンジンの構造上、基本は同じであるため、その整備の基本も原点はおなじである。普段から基本を大切に整備作業に携わっていきたいと肝に銘じた事例であった。




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