燃料噴射装置のアクチュエータ駆動制御

燃料噴射装置におけるアクチュエータ駆動制御

アクチュエータの駆動制御は、コントロールユニットの出力信号によって行われる。ここでは、燃料噴射装置について説明する。

燃料噴射装置

燃料噴射装置は、図1のような角センサからの信号を、コントロールユニットが、適切な空燃比になるように噴射量や噴射時期を計算して、インジェクタに、適切な時期に適切な時間だけ信号を送ることにより燃料を噴射させるシステムである。

ここでは、インジェクタの駆動回路とコントロールユニットによる制御について説明する。

図1:燃料噴射装置のシステム図

インジェクタの駆動回路

電圧制御式

図2(1)は、電圧制御式のインジェクタ駆動回路を示したもので、インジェクタへの通電時間の長さによって燃料噴射量を制御している。

インジェクタは、図のようにコントロールユニットに接続されていて、図1(1)のような全気筒噴射のものでは、全気筒のインジェクタが並列に接続される。

また、図2(2)のような2グループ噴射のものでは、1 ・3・5と2・4・6が2つのグループに分かれて並列に接続されている。さらに、2気筒ずつ並列に接続したものや、各気筒が独立して接続されているものもある。

図2:電圧制御式インジェクタの駆動回路

図中のバッテリからの電圧は、図2(1),(2)ともにイグニッションスイッチからメーンリレー、インジェクタ、コントロールユニットまで加わっている。

図2(1)では、マイコンからの噴射信号によりインジェクタの噴射回路からの出力信号でパワートランジスタをONにして、インジェクタの1〜4が駆動されて燃料を全気筒同時に噴射する。

図2(2)では、インジェクタの駆動回路からの出力信号がTr1をONにした場合には、1 ・3・5のインジェクタが駆動し、出力信号がTr2をONにした場合には、2・4・6のインジェクタが駆動して、燃料を2回に分けて噴射する。

  • 高抵抗型インジェクタ

図2の電圧制御式の駆動回路で用いたインジェクタでは、ソレノイドコイルに抵抗が大きな導線を用いている。その理由は、インジェクタの応答性をよくする方法として、コイルの巻き数を少なくして線径を大きくする方法があるのだが、この方法では、インジェクタの抵抗値が小さくなり、電流が流れすぎて発熱量が多くなり寿命が短くなる欠点がある。

したがって、インジェクタの実用性を高めるために、逆に抵抗の大きな導線を使用し、電流を小さくして発熱を防止し、寿命を長く保つものが用いられている。

このようなインジェクタを高抵抗型インジェクタと呼んでいる。

図3:電圧制御式インジェクタの噴射波形(インジェクタマイナス側で測定)

図3は、オシロスコープによる電圧制御式のインジェクタの噴射波形(駆動波形)を示したもので、噴射信号がONになると、電流が流れ始めてインジェクタが駆動されるが、完全に駆動されるまでには、わずかに時間が掛かる。この間は、燃料は噴射されず、この時間を無効噴射時間(無効駆動時間)と呼ぶ。

電流制御式

図4:電流制御式インジェクタの駆動回路(4気筒エンジンでの全気筒同時噴射)

図4は、電流制御式のインジェクタの駆動回路を示したもので、前述の電圧制御式と同じく、インジェクタへの通電時間をコントロールユニット内のトランジスタ(Tr1)のON・OFFにより制御している。

バッテリからの電圧は、イグニッションスイッチからメーンリレー、フェイルヒューズ、インジェクタ、コントロールユニットまで加わっている。コントロールユニット内のマイコンからの噴射信号は、インジェクタの駆動回路を通り、Tr1をONにして、インジェクタの1〜4が駆動されて燃料を全気筒同時に噴射する。

図5:電流制御式インジェクタの各波形とニードルバルブの関係

図5は、インジェクタの噴射駆動時における、噴射信号、電圧波形、電流波形及びニードルバルブの各動作を同調させたものである。図5(1)はコントロールユニット内のマイコンからのOFF→ON→OFF時の噴射信号の電圧波形を表している。

図5(2)と(3)は、インジェクタのコイルに加わる電圧と電流の波形を表したものである。

図4のインジェクタ駆動回路からの出力信号により、Tr1がONになり、コイルに電流が流れ始めると、図5(2)のように電圧が低下し始めると同時に、図5(3)のように電流が増加して規定の電圧値に達すると、(図4のコントロールユニット内のA点のインジェクタ通電電流の検出は、実際には電圧に置き換えて行っている。)図4のインジェクタ駆動回路からの出力信号が停止し、Tr1をOFFする。このときがインジェクタのプランジャ吸引の期間に当たり、図5(4)のニードルバルブの無効噴射時間をできるだけ短くすることでインジェクタの噴射応答の向上を図っている。

前述したインジェクタのコイルに加わる電流が減少して、規定の電圧より下がると、再びTr1がONになる。このTr1のON・OFFの作動は、図5(2)の波形において、約20kHzの周波数で繰り返し行われて、これがインジエクタのプランジャ保持の期間に当たり、電流が小さな分だけインジェクタコイルの発熱が抑えられる。

また、図4に示すTr2は、Tr1のON・OFF時のインジェクタコイルからの逆起電力を図5(2)に示す程度に吸収することで、通電電流の急激な減少を抑えて制御を行いやすくしている。

なお、フェイルヒューズは、何らかの原因により、インジェクタに過大電流が流れたときに溶断して、インジェクタへの通電を遮断して保護する。

図6:電流制御式インジエクタの噴射波形(インジェクタマイナス側で測定)

図6は、オシロスコープによる電流制御式のインジェクタの噴射波形を示したものである。

電圧制御式と異なるところは、電流制御の部分と逆起電力が小さいことである。また、噴射量が増加した場合には、電流制御部分の時間が長くなり、噴射時間を長くしている。

コントロールユニットによる制御

燃料の噴射量制御は、噴射時間であるインジェクタへの通電時間により決定される。

したがって、コントロールユニットは、バキュームセンサ又はエアフロメータからの信号と、そのほかの各センサからの入力信号から判断したエンジンの運転条件に応じた必要噴射時間を、きめ細かく計算して、インジェクタへの通電時間を制御することにより、燃料噴射量を制御している。

燃料噴射の制御内容は、次のように分類される。各項目の詳細は、以下に説明する。

同期噴射

始動時噴射

エンジン始動時には、インレットマニホールド圧力及び吸入空気量が不安定なため、その信号を元に演算を行うと、燃料噴射時間の変動が大きくなる。

したがって、始動時噴射時間は、インレットマニホールド圧力やエンジン回転速度に関係なく、冷却水温によって決定する始動時基本噴射時間と、吸気温度補正及び電圧補正によって決定され、始動噴射時間は次の式で表される。

始動時噴射時間(T) = 始動時基本噴射時間(Tp) × 吸気温度補正係数(K) + 電圧補正時間(Tv)

なお、エンジンが始動時であるかどうかは、エンジン回転速度及びスタータ信号により判定している。

始動後同期噴射
  • 始動後同期噴射の演算式

エンジン始動後は、インレットマニホールド圧力信号または吸入空気量信号とエンジン回転信号によって決定される基本噴射時間と、各センサからの信号による補正および電圧補正によって、次の式により始動後同期噴射時間が決定される。

始動後同期噴射時間(T) = 基本噴射時間(Tp) × 噴射補正係数(Km) + 電圧補正時間(Tv)

  • 基本噴射時間の演算式

基本噴射時間は、インレットマニホールド圧力または吸入空気量などにより算出され、マップとしてあらかじめ、コントロールユニットに記憶されている最も基本となる噴射時間である。

    • Dジェトロニック方式

基本噴射時間(Tp)は、インレットマニホールド圧力によって計算された値が、エンジン回転速度と相関されたマップとして、あらかじめ、コントロールユニットに記憶され、その中から選択される。(バキュームセンサ対応)

    • Lジェトロニック方式

基本噴射時間(Tp)は、エアフローメータで検出した吸入空気量と、クランク角センサにより検出したエンジン回転速度によって、次式の演算が行われ決定される。(エアフロメータ対応)

噴射補正係数の演算式

電子制御装置は、様々な条件の下で、最適な運転を確保するために、エンジンの状態が始動時、暖機時、加速時、高負荷時などの時には、各センサからの信号を元に基本噴射時間の補正を行っている。

補正係数(Km)には、吸気温度補正係数、暖機増量補正係数、始動後増量補正係数、出力増量補正係数、空燃比フィードバック補正係数などがある。

補正係数(Km)は、各種補正係数(K1,K2,・・・Ka,Kb・・・)の和や積などにより、一般に次のように表される。

    噴射補正係数(Km)= 1+K1+K2・・・×(1+Ka+Kb・・・)

始動後増量補正

図7:始動後増量補正特性

エンジン始動時に、冷却水温に応じて噴射量を補正し、始動直後のエンジン回転速度の安定化を図っている。

増量比は、図7のように始動時の冷却水温により決定され、噴射回数が増すにしたがって徐々に減少する。

暖気増量補正

図8:暖機増量補正特性

冷間時の運転性確保のため、冷却水温に応じて噴射量を補正する。

増量比は、図8のように冷却水温が低いときほど大きくなる。

吸気温度補正

図9:吸気温度補正特性

吸入空気温度による吸入空気密度の差から空燃比のずれが生じるため、吸気音センサからの信号により噴射量を補正する。

増量比は、図9のように吸入空気温度が低いときほど大きくなる。

過渡時空燃費補正

加速、減速などの過渡期に増量、減量を行い、運転性及び燃費の向上を図っている。

Dジェトロニック方式では、加速、減速の判定は、単位時間当たりのインレットマニホールド圧力信号の変化量で行う。

Lジェトロニック方式では、スロットルバルブ開度の変化量又はエンジン1回転当たりの吸入空気量の変化量で、加速、減速の判定を行っている。

出力増量補正

インレットマニホールド圧力または吸入空気量、エンジン回転速度及びスロットルバルブ開度によって出力域を検出し、エンジン運転状態に応じて増量する。スロットルバルブの開度が規定値以上で増量を行う。

空燃費フィードバック補正

O2センサは、空燃比が理論空燃比よりも小さい(濃い)と起電力が高く、大きい(薄い)と低くなり、その信号をコントロールユニットに入力する。

コントロールユニットは、この信号を基準電圧と比較することにより、理論空燃比より小さいか、大きいかを判定する。

理論空燃比より小さい場合には一定の割合で噴射量を減量する。(リッチバーン)

理論空燃比より大きい場合には逆に噴射量を増量する。(リーンバーン)

以下、図10に空燃比フィードバック補正の一例を示す。

図10:空燃比フィードバック補正

なお、運転性や触媒過熱防止などの安全性の確保のため、次の条件下では、空燃比フィードバック補正を停止させている。

  • エンジン始動時
  • 始動後増量中
  • 冷却水温が低いとき
  • O2センサのリッチ信号とリーン信号の切り替えが一定時間(15秒)を超えたとき
  • フューエルカット時
  • 減速時(アイドル接点ON)
  • 高負荷時

電圧補正時間

図11:開弁時間及び電圧補正時間

コントロールユニットからの噴射信号がONになり、インジェクタのプランジャが吸引されて開弁するまでには、図11のように作動遅れが生じる。この作動遅れの時間が電圧補正時間で、バッテリ電圧の影響を受ける。

インジェクタを作動させる噴射信号ONの時間を一定にすると、バッテリ電圧が高いときには、インジェクタが開弁する時間は短く、逆にバッテリ電圧が低いときには長くなる。これにより、インジェクタの開弁時間が異なり噴射量が増減して、空燃比にずれが生じる。

したがって、インジェクタの開弁時間を一定にするためには、バッテリ電圧が高いときには、噴射信号を短く、低いときには長くする必要がある。これが電圧補正で、電圧補正時間は、図12のようにバッテリ電圧が高いほど短く、低いほど長くなっている。

図12:電圧補正時間

噴射方式

同時噴射方式

図13:同時噴射方式

1サイクルの間に、全気筒のインジェクタが同時に2回噴射する方式で、図13の第2気筒を例に説明すると、クランク角度180°前(圧縮上死点前)で、1回目の燃料がインレットマニホールドに噴射されるが、この時点で燃料は滞留する。

さらに、エンジンが回転し、クランク角度540°前(排気上死点前)で2回目の燃料が噴射され、その次の吸入行程時に2回噴射された燃料が空気と共にシリンダ内に吸入される。

このシステムは単純であるが、吸入行程以外ではインレットマニホールド内に燃料が滞留するため応答性がやや劣る。

独立噴射方式

図14:独立噴射方式

図14のように各気筒ごとの吸入行程の直前(排気上死点前)に、その気筒のインジェクタがインレットマニホールド内に燃料を噴射し、吸入行程時に空気と共にシリンダ内に吸入される。

このように、必要な燃料を各気筒ごとに1サイクルに1回噴射する方式となり、吸入行程直前にインレットマニホールド内に燃料が噴射されるため、燃料の滞留がなく応答性に優れている。

グループ噴射方式

図15:グループ噴射方式

全気筒を通常2気筒ずつのグループに分けて、1サイクルの間にそのグループごとにまとめて1回噴射する方式である。

図15の例では、第1、第2気筒のインジェクタが燃料を噴射するのは、クランク角度で540°前(排気上死点前)であり、吸入行程時に空気と共にシリンダ内に吸入される。

このように、必要な燃料をグループごとに1サイクル1回噴射する方式で、同時噴射方式と独立噴射方式の中間的な特徴を持っている。

非同期(同時)噴射

非同期噴射とは別に、各センサからの信号が入力された直後だけ、その入力信号をコントロールユニットのマイコンが計算し、噴射が必要と判断したとき、全気筒同時に一定量の噴射を行うものである。

図16:非同期(同時)噴射方式

図16は、独立噴射方式の非同期(同時)噴射を示しており、同期(独立)噴射と重なったときには、非同期(同時)噴射の時間分が延長される。図16では、3番シリンダの同期(独立)噴射の時間が延長されている。

始動時非同期(同時)噴射

スタータ信号またはクランク角(回転)信号が入力された直後に1回非同期(同時)噴射を行い、始動性を向上させている。

加速時非同期(同時)噴射

スロットル開度の変化が加速時で、変化量が設定値以上の時、非同期(同時)噴射を行い、応答性を向上させている。

エンジン回転低下時非同期(同時)噴射

フューエルカット中および復帰時にエンジン回転速度が急激に低下した場合、非同期(同期)噴射を行い、運転性を確保している。

フューエルカット

減速時フューエルカット

スロットルバルブが全閉で、エンジン回転速度が規定値以上の時、燃料噴射を停止し、触媒の過熱防止及び燃費の向上を図っている。

図17:フューエルカット回転速度及び復帰回転速度

図17は,フューエルカット回転速度及び復帰回転速度の一例であるが、冷却水温が低いとき(またはエアコンがONのとき)は、回転速度を高く設定している。

エンジン過回転時フューエルカット

エンジン回転速度が規定値以上になったとき、燃料噴射を停止し、エンジンのオーバーらんを防いでいる。

走行速度過多時フューエルカット

車速が規定値を超えたとき、燃料噴射を停止し、走行速度を制限している。(リミッター)

N-Dシフト時フューエルカット

エンジン回転速度が規定値以上の時、シフトレバー操作時に燃料噴射を停止して、ショック低減及びオートマチックトランスミッションの保護を図っている。

空燃比学習制御

図18:空燃比フィードバック補正の経時変化

コントロールユニットは、前述した空燃比フィードバック補正により、空燃比を理論空燃比付近に制御している。

また、基本噴射時間は、ほぼ、理論空燃比になるように設定され、コントロールユニットにデータが記憶されているが、エンジンの個体差や経時変化で空燃比にずれを生じることがある。

基本噴射量の空燃比にずれが生じれば、空燃比フィードバック制御による補正量が多くなるが、補正の範囲には限界があり、図18のCのように補正範囲を超えると制御が困難になる。

そこで、コントロールユニットは、基本噴射量が理論空燃比からずれていないかを絶えずモニターして、常に理論空燃比付近になるように制御している。

これを学習制御といい、コントロールユニットに学習補正係数を設定している。

したがって、O2センサによる空燃比フィードバック補正量は、常に、わずかな量となっている。

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