点火制御装置・イグナイタ

点火制御装置・イグナイタ

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図1:点火制御装置のシステム図

点火装置における点火制御は、図1のシステム図のようにコントロールユニットを中心に各センサ及びイグナイタで行っている。

コントロールユニットでは、各センサから入力される信号により、車両及びエンジンの運転状態を判断し、それぞれの運転状態に最適な点火時期の制御と通電時間制御を行った上で点火指示信号を出力している。

イグナイタの機能は、コントロールユニットからの点火指示信号により、イグニッションコイルの一次電流をON・OFFすることである。

イグナイタ

イグナイタは、コントロールユニットからの点火信号を基に、イグニッションコイルの二次側に高電圧を発生させるため、トランジスタをON・OFFして、一次側に電流を流したり、遮断したりするためのものである。

図2は、独立点火方式のイグナイタ回路の一例であり、イグナイタがイグニッションコイルに内蔵されているタイプのものである。

イグナイタは、図のようにコントロールユニットからの信号の波形を成型する波形整形回路、一次電流がある限度を超えないようにする過電流保護回路、二次コイルに発生する過電圧がドライブ回路に掛からないようにする過電圧保護回路、これらの回路により制御された電流をトランジスタへ(Tr)送るドライブ回路などで構成されている。

イグナイタの作動
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図2:独立点火方式のイグナイタの回路

図2において、コントロールユニットは、カム角センサ、クランク角センサなどからの信号を基に、そのときのエンジン回転速度や負荷を計算して点火すべき気筒を判別する。

そして、コントロールユニット内の通電時間制御回路が、イグナイタのイグニッションコイルに一次電流を流し始める時期を決めた後、点火信号がイグナイタに送られる。

この点火信号は、波形整形回路を通った後、ドライブ回路に送られてドライブ回路を駆動する。

ドライブ回路が駆動されると、バッテリからの電流は、過電圧保護回路を通ってドライブ回路を通り、トランジスタ(Tr)のベースに流れてTrをONにさせる。

TrがONになると、バッテリからの電流は、一次コイル、Tr、過電流検出抵抗(R)を通ってアースさせるため、イグニッションコイルに一次電流が流れる。

次に、点火する時期は、あらかじめコントロールユニットによって適切な点火時期になるように計算され、これに基づきコントロールユニットは、イグナイタに出力している点火信号を遮断するため、ドライブ回路への点火信号を断つ。

これにより、ドライブ回路からトランジスタ(Tr)に流れているベース電流が遮断されるので、TrはOFFとなり、一次電流が遮断されて二次コイルに高電圧が発生して、スパークプラグに火花が飛ぶ。

また、一次電流が規定値を超えると、過電流保護回路により、それ以上電流が流れないようにドライブ回路を介してトランジスタ(Tr)に流れるベース電流を制御している。

過電流保護回路
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図3:過電流保護回路の点火信号と一次電流との関係

イグニッションコイルはイグナイタと一体型となっており、イグナイタ部分は、一体型ではないものより小型化されている。保護回路は図3のようにのみ電流をカットする過電流保護回路を内蔵している。

コントロールユニットによる制御

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図4:コントロールユニットによる点火制御

コントロールユニットは、図4に示すようにクランク角センサやバキュームセンサまたはエアフローメータなどからの信号を基に、ピストンの位置、エンジン回転速度および吸入空気量(エンジン負荷)を算出し、そのときの運転状態に応じた適切な点火時期を記憶回路から選択して、出力回路からイグナイタへ点火信号を送っている。

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図5:進角特性の一例

コントロールユニットの記憶回路は、エンジン負荷及びエンジン回転速度に応じた点火時期のパターンを、あらかじめ入力しておくことができるので、図5に示すような複雑な進角特性を得ることができる。

コントロールユニットによる制御において、図4からの点火時期制御、基本通電時間と通電時間制御及びこれらによる総合制御について説明していく。

点火時期制御

点火時期制御には、次のように始動時に制御する固定進角と、始動後に制御する基本進角に各センサからの信号による補正進角を加えた進角特性を持っており、さらに、基本進角は、スロットルポジションセンサからのアイドル信号によってON時(アイドル回転時)とOFF時(通常走行時)の進角特性に分けられる。

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したがって、基本固定点火時期(進角制御なし)に、これらの点火時期制御によって算出された進角値を加えたものがイグナイタに送られる点火信号、すなわち、点火時期になる。

点火時期 = 初期セット進角(固定進角)+ 基本進角 + 補正進角

  • 始動時制御固定進角(初期セット進角)

始動時には、インレットマニホールド圧力が不安定なため、このときの点火時期はコントロールユニットでは算出せず、専用の回路を通して固定値の点火信号をイグナイタに送っている。

また、固定進角として出力するために必要なセンサからの入力信号は、エンジン始動時の回転速度を検出するクランク角センサの信号及びスタータスイッチからのスタータ信号とがある。

  • 始動後制御基本進角(基本進角)

エンジン始動後のアイドル信号ON時の基本進角は、クランク角度信号(回転信号)により、あらかじめ設定された点火時期に制御されている。

アイドル信号OFF時の基本進角は、回転信号およびインレットマニホールド圧力信号または吸入空気量信号により、あらかじめ設定された点火時期に制御されている。

  • 始動後制御補正進角

エンジン始動後は、アイドル信号、水温信号、ノック信号などによりエンジン運転状態を判断し、これらに対する補正値が算出され、あらかじめ設定された点火時期に制御される。

    • 暖機進角補正

冷却水温が低いときには、運転状態に応じて点火時期を進角させ、運転性を向上させる。

    • アイドル安定化補正

アイドル回転速度が低くなると点火時期を進角させ、高い場合には遅角させてアイドル回転速度の安定化を図る。

    • 過渡期補正

水温60℃以上の急加速時に点火時期を進角させ、ノッキングを防止する。

    • 加速時補正

加速時に一時的に点火時期を遅角することにより、運転性の向上を図る。

    • ノック補正

ノックセンサがノッキングを検出すると遅角し、ノッキングがなくなれば進角させる。きめ細かい制御を繰り返して、出力・燃費を向上させる。

  • 最大・最小進角特性

点火時期が異常に進角、又は遅角するとエンジン自体に悪影響を及ぼすため、最大・最小進化値を設定している。

通電時間
  • 基本通電時間

コントロールユニットは各センサからの信号を基に点火時期を決めてイグナイタに点火信号を送っているが、さらに、一次電流を流す時間として基本通電時間も決めている。

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図6:点火信号

基本通電時間は、図6のように点火信号がONしている時間であり、この時間の立ち上がりは、コントロールユニットにあらかじめ設定された点火時期の手前の一定クランク角度で行われ、点火時にOFFするようになっている。

  • 通電時間制御
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図7:一次電流の立ち上がり特性

イグニッションコイルの2次側に誘起される起電力の大きさは、一次電流の大きさによって変化する。すなわち、1次コイルに電流が流れようとするときには、コイルの自己誘導作用により逆起電力が生じるため、図7のようにある時間を経過しなければ、定常電流(I)にならない。

この場合、定常電流(I)は、バッテリ電圧(V)と一次回路の抵抗(R)からオームの法則によって求められ、I = V/R となる。

1次電流が定常電流になるまでの立ち上がりの程度は、時定数(タイム・コンスタント)で表され、この値が小さいほど1次電流の立ち上がりは良い。

時定数を小さくするためには、コイルのインダクタンスを小さくすればよい。

エンジンの回転速度が高くなると、1次電流を流して遮断するまでの通電時間が少なく、電流が増加する途中で遮断されるので、1次電流が減少して2次誘起電圧が低下する。

この低下を防ぐには、イグニッションコイルの性能向上はもちろんであるが、一次電流を定常電流に近づける必要があり、コントロールユニットに通電時間制御機能を持たせて、1次電流の通電時期を早くして、通電時間を長くすることで対応している。

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図8:通電時間制御

図8のように、A点で1次電流を流し始めていたのを、高回転時はΔtだけ早いB点から電流を流せば、ΔIだけ1次電流が増加し、その分2次電圧も増加する。

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図9:通電時間と二次電圧の関係

図9は、エンジン回転速度に対するイグニッションコイルの2次電圧が、通電時間によってどのように変化するのかを表したものである。

特に、高速回転になるほどその違いが大きく現れ、通電時間が長いほど高電圧を発生することがわかる。

したがって、通電時間制御は、エンジン回転速度が高くなるにつれて、トランジスタがONする時期(1次電流が流れ始めるとき)を早めている。

  • 時定数

時定数とは、トランジスタがONして1次電流が流れ始めてから、定常電流の0.632倍の電流値になるまでの時間(秒)のことをいう。

  • インダクタンス

回路の電流を変化させると、電磁誘導作用によって起電力を生じるが、このときの電流の変化に対する起電力の比をインダクタンスとか誘導係数といい、コイルの巻き数の自乗に比例して変化する。単位はヘンリ(H)である。

総合制御

総合制御について、図10を一例として、基準信号の検出条件をカム角センサのクランク角度基準位置信号1サイクル10°と設定し、かつ、基本点火時期の決定を2つの信号を基に行われることとして説明する。

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図10:6気筒エンジンの場合における総合制御の一例

点火時期は、燃焼圧力が最大となる燃焼時間を見込んで、通常、ピストン圧縮上死点前何度と決定されているため、適切な時期に、点火順序に従って各気筒に点火信号を送るためには、基準となる気筒(第1気筒)の圧縮上死点を検出(気筒判別)する必要があり、その検出には、カム角センサとクランク角センサのそれぞれの相対位置を、コントロールユニットが計算することにより行っている。

クランク角度信号は、クランク角センサシグナルロータに欠歯部分があるので、図の②の部分のように信号が変化するが、その部分の中心から150°遅れた位置が、1気筒目、あるいは、6気筒目の圧縮上死点として検知される。

他方で、これらの気筒判別は、クランク角度基準位置信号(カム角センサ)により行われ、図の②部分の近い方の基準位置信号、すなわち、90°遅れている図の①の基準信号が第1気筒目の信号として認識される。そこで、点火時期は、第1気筒目の圧縮上死点前15°(図の③)が決定される。

そして、この点火時期から基本通電時間として必要な35°手前で点火信号をONするようにコントロールユニットで制御される。すると、図の最も下に示されているような点火信号がイグナイタに出力される。

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図10:6気筒エンジンの場合における総合制御の一例

次に、エンジン回転速度が上昇した場合には、1次電流が低下するため、クランク角度信号(回転信号)により通電時間制御回路を基に、通電開始時間を早く(図の④)するように制御すると共に、コントロールユニットの補正進角が加わり(図の⑥)、イグナイタの1次電流の遮断時期もその分早くなる。(図の⑤)

また、過大な1次電流を流さないように、イグナイタの過電流保護回路により、規定のの電流値を超えないように制御している。(図の⑦)

さらに、点火時期を決定する要素として、エンジン回転速度及びエンジン負荷(インレットマニホールド圧力)が挙げられるが、一定期間に発生するクランク角度信号の数を基に、コントロールユニットによりエンジン回転速度を算出し、エンジン1回転当たりの吸入空気量をバキュームセンサ又はエアフローメーターによって求めることにより、エンジン負荷の状態を検出している。

以上のように、電子制御式点火装置は、エンジンの運転状態に適した点火時期を選択して、かつ、安定した点火火花を確保している。

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