後輪ブレーキが効かないハイエース

1997年式トヨタ・ハイエース 型式:KC-LY111 エンジン型式:3L 走行距離:26,000km

ハイエース車検整備

初回車検で入庫。貨物用ワゴンにしては走行距離が少なく程度のいい車両である。このクルマはフラットシングルジャストローというグレードのために荷台の床はまっすぐで、前輪タイヤは175/R148PR、後輪タイヤは235/50R13という変則的な組み合わせになっている。

いつものように車検整備に取りかかる。通常初回車検もしくは走行距離が少ない車両ではブレーキの整備には手を付けず。そのままブレーキオイルのみを変えるということが通例のようだが、かなり古いクルマなのでブレーキの分解作業、調整は車検ごとに毎回必要だと個人的には思っている。決して過剰整備ではないのではなかろうか。今回もリア・ドラムブレーキの分解整備とホイールシリンダーカップキットの交換、フロントブレーキのディスクキャリパーOHでピストンシール類のを交換し、ブレーキ液配管ラインのエア抜き作業もかねてブレーキ液を交換した。

点検の目安の一つであるが、ブレーキ液の透明さとホイールシリンダやブレーキパイプ内で年月を経たブレーキ液の汚れの差は一目瞭然である。ブレーキから発生する熱やゴム部品類の劣化で茶色に汚れた液はやはり定期的に交換すべきであると思う。



後輪ブレーキがきかない

整備作業が終わって検査ラインを通すと、前輪ブレーキの制動力は正常なのだが、後輪ブレーキの制動力が40〜50kgしかなかった。

思い切りブレーキペダルを踏み込んでもテスタ上でタイヤが空転してしまい、ブレーキがほとんど効いていない状態だった。しかし、サイドブレーキと一緒に引くと制動力が上がるので、ブレーキライニングの当たり不良ではなく、後輪ブレーキにかかる油圧が低いようである。そこで、再び後輪ブレーキのシリンダーカップキットを分解して点検したが、異常は見られなかった。再度エア抜き作業をやり直してみるが、制動力は出ない。

メーカーディーラーに車両を持ち込んで相談

ブレーキの整備作業自体にはミスがないので、近くのメーカーディーラーへ車両を持ち込んで相談してみる。すると、フロントマン曰く「このタイプの車両は、空車時に後輪ブレーキが効き過ぎて後輪がロックするのを防ぐためにPバルブ(プロポーショニング・バルブ)で後輪への油圧を制御している」とのことだった。実際に検査ラインで後輪ブレーキの制動力を測ると規定値に達していなかったので、このPバルブを調整することになった。

Pバルブを調整する

空車時に後輪の制動力が低いということは、積載時と同じ状態ならば後輪の制動力は上がるはずである。この車両は積載荷重に合わせてPバルブが動作し、後輪の制動力を上げる機構になっている。また、リヤアクスル(デフギヤ)の箇所にPバルブの調整ボルトが付いているので、この長さを変えることにより機械的に調整できるようになっている。

リヤアクスル上の調整ボルトを数センチ伸ばして後輪に荷重がかかっている(荷物をある程度載せている)状態を作り出すことにより、制動力は規定値まで上げることができた。

Pバルブとは

普通乗用車や軽自動車にも搭載されているが、トラック・バン系の荷物の積載状態の変化による後輪の制動力ロックを防ぎ、後輪の振れを防止するバルブで、ブレーキ液配管ライン内に組み込まれている。元々はブレーキを掛けたとき前輪よりも後輪が先にロックしてしまうことを防ぐための制動力調整バルブである。




リフトアップとブレーキ調整

単純に車検整備では、クルマをリフトアップするのでリアアクスルは 宙づり状態になり荷重がかかっていない状態である。このときPバルブは動作していない状態であり、この状態でブレーキ液を交換してエア抜きを実施して上手くいったとしても、リフトからクルマを降ろすと後輪に荷重がかかることによりPバルブが動作した状態になり、Pバルブの中にたまっていたエアがブレーキ液の配管ライン内に溜まり、制動力を落としていたとも考えられる。逆に、ブレーキ配管ラインのエア抜き作業をリアアクスルのみをジャッキアップしてPバルブを若干動作させた状態を仮に作っておいてエア抜きを実施すれば、エアは適切に抜けてPバルブを調整しなくとも適切な制動力を得ることができたかもしれない。

本来ならば、車検整備の際にPバルブの調整は不要のはずである。調整が必要なのは重い荷物を積載して極端な荷重がかかる場合や、カスタムパーツを組み込んで車高を調整するときくらいである。今回は車検整備において、適切な制動力を得るために調整したので、ユーザーには「後輪ブレーキを調整し直したので、以前より後輪ブレーキが効きすぎるかもしれない」という旨の説明をしておく必要がある。制動力を上げたためによく効くようになったと喜ばれるか、後輪が触れ出して危なくなったとクレームを付けられる恐れがあるからである。日頃から、納車時に車検整備の内容を詳しく説明することは必要不可欠だと思う。




後輪ブレーキが効かないハイエース” への1件のフィードバック

  1. エリシオンに乗っています。記事と同じように リアブレーキの効きが悪くとても悩んでましたが 詳しい情報を得て納得しました。とても有益な説明でした。又読ませて頂きます。有り難う御座いました。

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