自動車の灯火装置
自動車を安全に運転するために、灯火装置はなくてはならないものである。この灯火装置は、照明、標識及び信号などの目的で使用され、スイッチ、ランプ・アッセンブリ及び配線などで構成されている。
それぞれの目的で、法令によって規制される光度と色がある。
また、自動車の後部には、ストップランプ、テールランプ、ターンシグナルランプなどが装着されるので、ランプ・アッセンブリの簡素化やデザイン上の観点から、各ランプを1つにまとめたコンビネーションランプが用いられている。
目次
電球(バルブ)
バルブは一般に、図1のようにガラスの球体内に光源となるフィラメントを設け、窒素ガスとアルゴンガスなどの不活性ガスを混合して封入したものに、口金を付けたものが用いられている。
フィラメントは図1(1)のようなシングルフィラメントのものと、図1(2)のようなダブルフィラメントのものがあり、用途によって使い分けられている。
また、ヘッドランプ用として、ヨウ素にキセノンガスやクリプトンガスを加えた封入ガスを使用するハロゲンランプが用いられている(図2)
このバルブは、普通のガス入りバルブと比較して同じ容量でも明るく、寿命も長く、光度が安定しているという特徴を持っている。また、ハロゲンランプよりも消費電力が少なく、光量が2倍程度になるキセノンガスを封入したフィラメントレスの放電管方式のヘッドランプも一部に用いられている。
現代の自動車は、バルブもヘッドランプも、そのほとんどがLEDランプ(発光ダイオード)である。ここで取り上げるのは、LEDが主流になる以前のバルブやヘッドランプである。
ヘッドランプ
ヘッドランプの構造
ここでは、ヘッドランプの原型であるシールドビーム型と、一般的に用いられているセミシールドビーム型ヘッドランプについて取り上げる。
いずれの場合も、フィラメントから出た光は、直接または、反射鏡で反射されてレンズを通り、前方に投射される。
反射鏡は一般的に、金属またはガラス素材で作られ、その形状は回転放物面になっている。反射鏡で反射した平行光線をそのまま照射したのでは、すれ違い時に対向車にまぶしさを与えてしまうので、レンズに設けた多数のプリズムによって、平行光線の角度を変化させ、路面は明るく照射するが、対向車にはまぶしさを与えないような光軸になるように調整されている。
また、レンズの形状は車種によって様々なデザインが採用されている。
- シールドビーム型
シールドビーム型ヘッドランプは、図4のようにユニット全体が電球になっていて、反射鏡にはガラスの表面にアルミニウムめっきが施されている。
フィラメントの上方に遮光キャップを設け、フィラメントから上方に向けて直射される光を遮り、雨や雪や霧などの悪天候時に水滴や雪片による乱反射を防ぎ、前方視界が悪くなるのを防ぐ工夫が施されている。
- セミシールドビーム型
セミシールドビーム型ヘッドランプは、図5のようにレンズと反射鏡は一体になっている。
バルブは独立して取り付けるようになっていて、後方から交換できるようになっている。バルブにはハロゲンランプなどを用いている。
ヘッドランプの機能
ヘッドランプは、夜間前方を照らすのが目的であるのと、すれ違い時に対向車にまぶしさを与えてはならない点から、機能面では配光特性が重要となってくる。つまり、光がどのように拡散照射されるかということである。
ヘッドランプでは、その用途から水平に広く、垂直方向には狭い偏平な配光特性となっていて、その明るさは両端では弱く、中央に向かうにしたがって強くなるようになっている。また、これらの配光特性は走行時とすれ違い時には、その条件に応じて変化させることができる。
- 2灯式シールドビーム型ヘッドランプ
2灯式シールドビーム型ヘッドランプは、図6のように1つのユニットに2つのフィラメントを設けている。
1つのフィラメント(走行ビーム用)を反射鏡の焦点に配置してフィラメントに電流を流すと、フィラメントの光は反射鏡によって平行光線となって遠くまで照射する。
もう1つのフィラメントは(すれ違いビーム用)、焦点より少し上側に配置されている。
切り替えスイッチで、すれ違いビーム用フィラメントに切り替えると、光源の位置が高くなるので、反射の性質から光束は下向きでやや左の方向(対向車の反対方向)を照らすようになる。
- 2灯式セミシールドビーム型ヘッドランプ
2灯式セミシールドビーム型ヘッドランプは(ハロゲンランプ)、図8のようにすれ違い用フィラメントを焦点より前方に配置し、フィラメント下側に遮光板を設けている。
このため、図9(1)のように走行ビーム時では、上方まで照射しているが、すれ違いビーム時では、図9(2)のように左右上方の照射が、ほぼ水平にカットされ、すれ違い時の対向車のまぶしさを軽減している。
- 灯火回路
図10は灯火回路の一例である。この回路の作動は、ライトコントロールスイッチを「T」にすると、テールランプリレーがONになり、テールランプ、クリアランスランプ、ライセンスランプが点灯する。
次にスイッチを「H」にすると、ヘッドランプリレーがONになり、同時にヘッドランプが点灯する。
また、走行時とすれ違い時に、ヘッドランプが照らす方向と距離をディマスイッチにより切り替えている。
テールランプ
テールランプは、灯火色が同じという関係でストップランプと兼用される場合が多く、バルブとしてはそれぞれの明るさに応じたフィラメントを備えたダブルフィラメント型が多く用いられている。
電気回路としては、図10のようにテールランプリレーを通して、ライトコントロールスイッチの操作により点灯・消灯ができるようになっている。
レンズは、赤色のものが「道路運送車両の保安基準」によって決められている。
ストップランプ
ストップランプは、灯火色の関係からテールランプと兼用される場合が多く。したがって、その種類や構造は、ハイマウントストップランプを除けば、テールランプと同じである。
ストップランプは、主ブレーキ装置及び補助ブレーキ装置を操作している場合に、車両後方に対して注意を促すものであるので、ブレーキ装置と連動して点灯するようになっている。
このため、一般に、図11のようなストップランプスイッチがブレーキ装置に取り付けられており、その電気回路は図12のようになっている。
制動のためにブレーキペダルを踏み込むと、ブレーキペダルが前進するので、スイッチ内のロッドがスプリングにより押し出されて、接点が絶縁部から金属部に接するようになり、ランプが点灯する。
バックランプ
バックランプには、他の灯火と一緒に組み込まれてコンビネーションランプとして用いられているものと、他の灯火とは別に独立したブラケットにより、リヤバンパーやフレームに取り付けられて使用されるものとがある。
このランプは、トランスミッションのシフトレバーを後退に操作したときに点灯するようになっており、マニュアルトランスミッションでは、図13のようにスイッチがトランスミッションに設けられており、その電気回路は図14のようになっている。
シフトレバーを後退に操作すると、シフトフォークでスイッチを押し、図14において回路がONしてランプが点灯する。シフトレバーが後退の位置以外にある場合には、スイッチはOFFとなるので、ランプは点灯しない。
また、オートマチックトランスミッションでは、シフトレバーを後退のレンジに操作すると、インヒビタスイッチ(レンジの位置決めスイッチ)により、後退灯の回路がONしてランプが点灯する。
ナンバーランプ
ナンバーランプは、番号標の位置(ナンバープレート)、自動車の形状などから番号標の上下または左右から照明する方法のいずれかが用いられているが、いずれにしてもナンバープレートの確認を容易にするために、自動車の後方へ光が漏れないようになっている。
ナンバーランプは、テールランプと連動して点灯できるように、図10のようにテールランプ回路と並列に結線されている。
ターンシグナルランプ
ターンシグナルランプ、フラッシャーランプ(ウインカー)は、自動車の進行方向を変えるときに、ランプの点滅によって他車や歩行者などにその方向を伝えるものであるから、その作動は確実に行われ、確認の容易なものでなければならない。
したがって、次のような性質が要求される。
- 作動の異常が運転席で確認できること。
- 点滅周期は、外部からの確認に適した周期であること。
この点滅作動を行うターンシグナル・フラッシャユニットを作動原理の面から分けると、IC式、トランジスタ式、コンデンサリレー式などがあるが、IC式が多く用いられているので、IC式について説明する。
IC式は図15のようにターンシグナルランプの点滅を制御するICとリレーが組み合わされている。IC内部は発振回路、リレー駆動回路、ランプ断線検出回路の3つに大別される。
ランプの点滅回路は、発振回路によって決定される。発振回路の信号は、リレー駆動回路に加えられ、リレーコイルの通電と非通電を制御することで、ターンシグナルランプは点滅する。
シグナルランプのバルブが1灯断線した場合、ユニット内の電流検出抵抗を通る電流が減少する。このときの電流の変化を抵抗による電圧の変化に置き換えて、ランプ断線検出回路で検知する。この検知信号が、発振回路へ送られることで、点滅回数が増加させ、運転者にランプの断線を知らせるようになっている。
ハザードランプ
ハザードランプは、路上故障の際などに、前後左右のシグナルランプを同時に点滅させて、車両が停止していることや、警告を表示するもので、ターンシグナルランプを兼用している。
したがって、図16のようにターンシグナルフラッシャの回路にハザードウォーニングスイッチを設け、フラッシャユニットも兼用している。
ターンシグナルフラッシャと異なる点は、バルブの断線があっても、路上故障の際などの表示機能を保つために点滅回数が変化しないようになっていることである。
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