平成10年式 日産キューブ 型式:GF-Z10 走行距離:70,000km
発進時に異音
車検整備での入庫である。ユーザーの要望事項の中に、「発進時にキューという異音がする。」ということと、「シフトレバーが入りにくい」という修理依頼があった。
エンジンを始動させて、シフトを操作すると、クラッチが「半クラッチ状態」と同じような症状になり、完全には切れないが、エンジンを停止すると各レンジともすんなり入るようである。
この車はN-CVT方式で、電磁クラッチを採用しているが、Dレンジに入れるとわずか数メートルだが、「キュー」という異音が発生する。ただし、音はこの発進時だけで、走行中の異音は確認できない。
制御系統の点検
上記の診断から「電磁クラッチの故障」であることが疑わしいが、念のため、制御系統の点検を行う。N-CVTへの通電を遮断するためにブラシホルダーのコネクタを外して電流をカットした状態でエンジンを始動。この状態でシフトレバーを操作するが、やはり固く、クラッチは完全には切れない。
そこで、ブラシホルダーのコネクタを外したついでに、そのコネクタにチェックランプの端子を取り付けてレバーを操作してみると、Nレンジでは「消灯」、DまたはRレンジでは薄暗く点灯した。これはN-CVTがDまたはRレンジにシフトしたときにクリープ現象を作り出そうとして弱い電流を流しているだろうと予測することができる。これらの点検からN-CVTの制御系には問題がないと判断し、電磁くらっとの修理に取りかかるが、修理はおそらく電磁クラッチのAssy交換となるはずである。
電磁クラッチ交換
予想されることは「電磁クラッチの修理代」が高額になれば、車検費用と相まって「乗り換える」可能性がある。修理を実施するならユーザーの了解が必要になってくる。しかし、電磁クラッチの見積額が¥108,000であったにもかかわらず。ユーザーからは「直してくれ!」との依頼であったので、修理に取りかかった。
電磁クラッチの交換作業は初めてなので、メーカーディーラーに連絡して情報を集めようとしたが、「今まで、電磁クラッチを交換したことがない」「異音の原因はCVT本体では?」などと、お粗末な返答でしかなかった。まあ、修理したことがないのなら聞いても無駄だ、とりあえずリビルドがないか、ATのリビルド会社に聞いてみたが、電磁クラッチのリビルドは行っていないようだ。
仕方なく、走行距離70,000kmで壊れる電磁クラッチなら中古部品でもまともな者はないだろうと判断して、新品での対応をとることにした。
交換作業
電磁クラッチの交換の手順は、トルコン式のATと同じで、まずはクラッチのAssyをドライブプレートから切り離し、本体にクラッチがついた状態で下ろす。
次にミッションから電磁クラッチを取り外す作業であるが、トルコンなら引っ張れば外れるはずだが、この電磁クラッチはさび付いていて、なかなか外れず、なんとか抜けたと思ったら、オイルポンプ用のシャフトが一緒に抜けてきた。このシャフトは再使用するので、壊れた電磁クラッチから抜き取らなければならない。
さび付いているので、CRCを吹きつけ、ハンマーで振動を与えながら格闘すること約30分。ようやく抜けてきたので、新しいクラッチを取り付けて復元した。
交換後の確認作業と原因追及
交換後、早速、確認作業に入ったが、エンジンをかけて、Dレンジにシフトしたところ、走り出しても異音はせず、変速も、信号待ちからの再スタートも異音はない。加速もスムーズで、クリープもはっきりしており、乗った感触はかなりよかった。
検査・納車完了後、交換した電磁クラッチを分解してみたところ、ブレーキドラム上のコイル内面に異物(クラッチのパウダー?)がこびりついており、本来は、つるんとした内面であるはずが、ざらついていた。
このざらつきを紙やすりで研磨し、新しいクラッチパウダーを入れてやればクラッチの切れ不良くらいなら解消しそうであるが・・・。
トルクコンバータ式なら、ストール状態で発熱したとしても、ATFが循環するので発生した熱を外に放熱することができるが、このCVTはデューティ制御で電流をコントロールし、半クラッチ状態を作り出すため、それなりの放熱対策は行っているのだろうが、電磁クラッチであると発生した熱が放熱できずにこもってしまい、クラッチに無理な負荷がかかってしまったのかもしれない。