インジェクションノズル・ノズルホルダ
インジェクションノズル(以下、ノズル)は、インジェクションポンプから圧送された高圧の燃料を、燃焼する際に最良の噴霧状態にして、エンジンの燃焼室へ噴霧するためのものである。
燃焼室に噴射された燃料は、直ちに着火して短時間で燃焼しなければならないので、ノズルには次のような特性を持たせている。
- 燃料を微細な霧状にして着火を容易にする。(微細化)
- 霧状の燃料を燃焼室の隅々にまで確実に到達させる。(貫通力)
- 燃料の噴霧を広範囲に分散・分布させる。(分散・分布)
- 噴射終わりには、燃料を完全に遮断し、なおかつ、後だれを起こさない。(油密性)
ノズルホルダは、ノズルをエンジンへ取り付けて保持する役目と、燃料をノズルへと導くと共に、ニードルバルブとノズルボデーとを潤滑した燃料をリターンパイプによってフューエルタンクへ戻す働きをする。
また、ノズルホルダは、燃料噴射開始圧力を調整する機構を設けている。
インジェクションノズル
ノズルには、図1のようにノズルボデーと、ニードルバルブ(針弁)で構成されており、その種類には、ホールノズル、スロットルノズル、ピントウノズルなどがある。
ホールノズル
ホールノズルは、図2のようにニードルバルブの先端が円錐形であり、ノズルボデーに噴口が数個設けられている。
このノズルは、直接噴射式エンジンに用いられ、噴射開始圧力は17〜23MPaである。
噴口は、一般にノズルボデーの先端部に、エンジンの燃焼に適した燃料の広がりを得ることを目的に、ノズルに対して、ある角度(噴口角)をもって設けられている。
噴口数と噴口径は、噴霧粒の大きさや、噴霧の到達距離に適したものとなるようにエンジンの性能に応じて設計されている。
また、冷却効果を高めるために、図3のようにステム部の形状を長くして、シリンダヘッド(ウォータージャケット部)との接触面積を大きくしている。
スロットルノズル
スロットルノズルは、噴射初期に噴射量を絞る機構を設けたノズルで、図4のように噴口は1つで、ニードルバルブの先端が、ノズル噴口よりも、わずかに細い円錐状のピンとなっている。
このノズルは、主に渦流室式エンジンに用いられており、噴射開始圧力は10〜14MPaである。
図5は、スロットルノズルの作動を表したもので、インジェクションポンプから送られた燃料の圧力がノズルの噴射開始圧力に達すると、ニードルバルブは、図5(2)のように上昇を始め、噴口部から燃料の噴射が始まる。
燃料は、噴口とニードルバルブのピンとの間のすき間を通って噴射されるので、噴射の初期には、噴口面積が絞られていて小さく、わずかの燃料しか噴射されないようになっている。これをスロットル行程という。
さらに、ニードルバルブが押し上げられると、図5(3)のように噴口面積が最大となり、主噴射が行われる。
このように、噴口面積を変化させるのは、燃料が噴射されてから着火するまでに噴射された燃料の気化状態が悪いと、一時的に急激な燃焼が起こり、ディーゼルノックなどの異常燃焼が発生することを防ぐためである。
異常燃焼の発生を防ぐ方法としては、スロットル行程を設けて、異常燃焼が起こりうる期間の噴射量を少なくし、燃料の気化を容易にすることで、急激な燃焼を抑えている。
図6は、ニードルバルブのリフト量と噴口面積の関係を示したものである。スロットルノズルでは、ニードルバルブ先端のピンの形状及び寸法により、噴射角や、スロットル行程を変化させている。
ピントウノズル
ピントウノズルは、ノズルボデーに副噴口が設けられており、主に渦流室式エンジンに用いられている。
図8は、ピントウノズルのインジェクションポンプ回転速度とプランジャ1ストローク当たりの噴射量との関係を示したものである。
アイドリング時には、スロットル行程時間が長くなるので、図9(1)のように燃料を副噴口により空気流動に対向する方向に噴射し、圧縮空気との混合を最適化して、着火性を高めている。
また、回転速度が上昇すると、スロットル行程時間が短くなるので、噴射の大部分は、図9(2)のように主噴口より行われる。
※スロットル行程=アイドリング行程
ノズルホルダ
ノズルホルダは、ノズルのシリンダヘッドへの取り付け、ノズルまでの燃料の導入及びノズルの燃料噴射開始圧力を調整する機構を設けたもので、図10のようにインレットコネクタ、ノズルスプリング、アジャストスクリュ、ノズルホルダ、ノズルボデーなどで構成されている。
燃料は、インレットコネクタに入り、図10の矢印のようにノズルボデーのニードルバルブの下部に流れる。
ノズルに送られてきた燃料の圧力が、噴射開始圧力に達すると、ノズルスプリングのばね力に打ち勝ち、ニードルバルブを押し下げて燃料が噴射される。
また、燃料の一部は、ニードルバルブとノズルボデーとの潤滑を行うと共に、プッシュロッドとノズルホルダステーとのすき間からノズルスプリング室を経由して、リターンパイプからフューエルタンクへと戻る。
ノズルホルダには、シリンダヘッドへの取り付け方法により、図11のようにフランジ取り付け方式、ねじ取り付け方式、ねじブシュ取り付け方式の3種類がある。
燃料噴射開始圧力の調整は、ノズルスプリングに掛かる荷重(ノズルスプリングのばね力)を変化させて行うが、その方法には、図12のようなものがある。
図12(1)のねじ調整式は、ノズルホルダ上部に設けたアジャストスクリュによって調整するもので、大型車の直接噴射式及び渦流室式の燃焼室を持つエンジンに用いられている。図12(1)には渦流室式に用いられているものを示す。
図12(2)のシム調整式は、アジャストシムにより調整するもので、ノズルホルダ全長を短くできるため、小型車の渦流室式の燃焼室を持つエンジンに用いられる。
図12(3)の併用調整式は、アジャストスクリュとアジャストシムにより調整を併用したもので、2スプリングノズルホルダと呼ばれ、大型車の直接噴射式の燃焼室を持つエンジンに用いられる。
フューエルフィルタ
フューエルフィルタは、エンジン本体、あるいは、エンジンルームのボデーに装着されており、図13(1)のようにケース、エレメント、センターパイプ、カバー、オーバーフローバルブ、ドレーンプラグなどで構成されている。
エレメントの種類には、ろ紙式及びろ布式などがあるが、一般的にろ紙式が用いられている。図13(1)のエレメントはろ紙式であり、ろ紙を折り曲げて筒状にして、ろ過面積を大きくしている。
なお、フューエルフィルタの下部には、燃料と水を分離するセジメンタ部を設けて、ドレンプラグにより水を排出するようになっている。
また、図13(2)は、主に乗用車に用いられるフューエルフィルタで、エア抜き用のプライミングポンプを兼ね備えている。
フィードポンプから圧送された燃料は、図14のようにケースとエレメントとの間に入り、エレメントを通過してろ過され、センタパイプを通って出口からインジェクションポンプへと送り出される。
エレメントのつまりなどのため、フューエルフィルタの燃料の圧力が規定値を超えた場合には、オーバーフローバルブが作動し、燃料は、ボールバルブを押し開いて、リターンパイプを通り、フューエルタンクへ戻される。
また、燃料中にエアが混入した場合にも、オーバーフローバルブが作動して、混入したエアは、リターンパイプから燃料と共に排出される仕組みになっている。
フューエルタンク
フューエルタンクは、図15のようにタンク本体、フューエルタンクキャップ、フューエルゲージのセンダユニット、ドレンプラグなどで構成されている。
タンク本体は、その内面に防錆処理が施され、下部にはタンク内の水分やゴミなどを排出できるようにドレンプラグが取り付けられている。
また、燃料の揺動を少なくすると共に、強度を増すためにセパレータが設けられている。
フューエルホース・パイプ
フューエルホース及びパイプは、フューエルタンクからフィードポンプ、フューエルフィルタ、インジェクションポンプに至るものと、インジェクションポンプからインジェクションノズルに至るものとに分けられる。
特に、インジェクションに至るホースやパイプ類は、燃料が高圧になるため、耐圧性に優れたインジェクションパイプが用いられている。