アイドル回転速度制御装置・ISCV

アイドル回転速度制御装置・ISCV

アイドル回転制御装置は、アイドル回転時にスロットルバルブが全閉になっているために、バイパス通路にアイドルスピードコントロールバルブ(以下、ISCV)を設けて、図1のシステム図のように各センサからの信号を、コントロールユニットが適切なアイドル回転速度を演算してISCVを作動させ、スロットルバルブをバイパスして流れる吸入空気量を変化させて、アイドル回転速度を制御するものである。

図1:アイドル回転速度制御装置のシステム図

ISCVの種類

ロータリーバルブ式

ロータリーバルブ式ISCVは、図2のようにソレノイドコイルと回転方向に傾く磁石などで構成されているロータリソレノイド、空気量を制御するバルブなどで構成されている。

図2:ロータリーバルブ式ISCV

バルブは、図2のように磁石と一体で動くバルブシャフトの回転により、回転方向に移動して吸入空気通路を開閉する構造で、コイルに流れる電流の大きさと方向をデューティー制御することによって開度が制御されるようになっている。

図3:ロータリーソレノイドの作動原理

図3はバルブシャフトが回転する原理を図示したものである。

図3(1)では、磁石は楕円にくりぬかれた鉄心の中央に置かれ、N極とS極は最も磁力が強く、ギャップが最も小さい部分に引かれるので、磁石の磁力のみで図のような位置で固定している。

また、鉄心にはコイルが巻かれているため、これに電流を流すことにより、電磁石となり、磁界が発生する。

いま、鉄心の右側がN極となるように、図3(2)のように電流を流すと、磁石のS極は鉄心のN極側に、磁石のN極は鉄心のS極側にそれぞれ引き合うため、磁石は左回転方向に傾いて、バルブシャフトも同じ角度だけ傾く。

次に、図3(3)のように電流の方向を反対方向に変化させると、鉄心のS極とN極が逆になるため、磁石も逆方向に傾く。

  • デューティー制御

この場合のデューティー制御とは、コイルの通電時間における、電流のON・OFF時間の制御のことで、数百Hz単位でON・OFFを繰り返している。

デューティー比とはON時間とOFF時間の比率のことであり、例えば、デューティー比60%とは、電流を流している時間が60%で、流していない時間が40%ということである。

図4:ロータリーバルブ式ISCVの制御回路

図4は実際の回路の一例である。

トランジスタTr1とTr4は、デューティ信号がONのときに作動する。Tr2とTr3はデューティ信号がOFFの時作動するトランジスタである。

  • デューティー比が50%の状態の場合

図4の磁石位置の状態では、デューティー比50%の時の状態、つまり、前述で説明したコイルに電流が流れていない状態である。

デューティー比が50%の状態の場合、コントロールユニットから50%のデューティー信号を出力すると、IC回路から、Tr1とTr4のベースに電流が流れて両トランジスタがONする。

バッテリからの電流は、実線の矢印のようにTr1からコイルを通ってTr4からアースされ、鉄心は下側がN極、上側がS極の電磁石となる。

すると、磁石はS極が下側に、N極が上側の右回転方向に傾こうとするが、デューティ制御が数百Hzと速いため、その瞬間にはデューティ信号がOFFとなる。しかし、このままでは傾いてしまうので、IC回路からNOT回路を経由してTr2とTr3にベース電流が流れてTr2からアースされる。

このとき前述の場合とは逆に、鉄心の磁極は上側がN極、下側がS極となり、磁石は逆方向に傾こうとするが、デューティ制御が速いため、図のように中心で停止する。

これにより、鉄心の上下が、それぞれにNとSの磁極に入れ替わる動作を高速で同じ時間繰り返すために、磁石の磁極が中心から動かないようになっている。

  • ON時間が長い(デューティー比が大きい)場合

ON時間が長い(デューティー比が大きい)場合は、鉄心の上側の磁極がS極になっている時間が長いため、磁石は右回転方向に傾く。

  • OFF時間が長い(デューティー比が小さい)場合

OFF時間が長い(デューティー比が小さい)場合は、鉄心の上側がN極になっている時間が長いため、磁石は左回転方向に傾く。

すなわち、図5のようにデューティの比率に応じて、全閉から全開の間に制御される。

図5:デューティ比とバルブ開度及び吸気流量の関係

ステップモータ式

図6:ステップモーター式ISCV

ステップモーター式ISCVは,図6のようにステータコイルとローターなどで構成されているステップモータ、並びにバルブなどで構成されている。

  • ステップモーターの作動原理

ステップモータの作動原理は、図7のように規則的に配置されたステータコイルとロータ(永久磁石)において、ステータコイルの励磁を順序よく変えることにより、ロータ(永久磁石)が、ステータ・コイルの磁力により一定のステップ数だけ回転するようになっている。

図7:ステップモーターの作動原理

図7:ステップモーターの作動原理

ステータコイルの励磁を図7のようにAからBのように右にずらすと、ステータコイルの電磁石およびロータの永久磁石のNとSは引き合い、NとN、SとSは反発し合うため、ロータはCの位置まで1ステップ回転する。

実際のステップモータでは、ロータは、図7のようにN、S合計で16極に励磁された磁石でできており、ステータは、N、S合計で32の磁極になっている。

図8:ステップモーターのステータ

実際は、図8のように16極のコアがあるものを2個使用し、1つのステータには、巻き方向が異なる2つのコイルが巻かれ、また、4つの磁極がすべて位相をずらして取り付けてある。

したがって、ロータ1回転では、ステータコイルの磁極の数の分である32ステップ分動くことになる。

図9:ステータ極性のパターン(S1通電時)

図10:ステップモーター式ISCVの制御回路

図10の制御回路では、コントロールユニットのマイコンが、Tr1、Tr2、Tr3,Tr4と順に出力電流をベースに流しては止めるため、各トランジスタがON、OFFを繰り返し、4つあるコイルには、1つずつ順に電流が流れては止まる。

つまり、図9において、ステータコイルのS1に電流を流したときには、図のようにNo1磁極がN極、No3磁極がS極になり、1ステップ進んでS1の電流を止めた後、S2に電流を流すと、今度はNo2磁極がN極、No4磁極がS極となって2ステップ進む。

この状態から順次、S2の電流を止めた後、S3に電流を流すと、No3磁極がN極、No1磁極がS極になり、3ステップ進みS3の電流を止めた後、S4に電流を流すと、No4がN極、No2がS極となって4ステップ進むことになり、1ステップずつ回転していくようになっている。

これを逆回転させる場合には、図9の状態から、S2 、S1、S4、S3と逆の順序に電流を流してはとめていけばよい。

ロータとバルブシャフトは、ナットとボルトの関係になっており、ロータが回転した分、シャフトが軸方向に移動して、バルブがバイパス通路を広くしたり、狭くしたりして空気量を制御している。

コントロールユニットによる制御

コントロールユニットには、冷却水温、エアコン作動などの各条件に応じた目標アイドル回転速度が記憶されており。各センサからの入力信号を基にアイドル回転速度が目標値になるように制御している。

図11:ISCVシステム図

図11は、ISCVのシステム図の一例で、各センサからの信号によって、スロットルボデーのバイパス通路に流れる空気量をISCVにより調整し、アイドル回転速度を制御している。

始動時制御

始動時は、ISCVの吸入空気量は最大になっている。したがって、その状態でエンジンを始動すると、回転速度が高すぎる場合があるので、始動と同時にそのときの冷却水温に応じたISCVの開度を決めている。

図12は冷却水温とISCVの開度の関係の一例を示したものである。

図12:冷却水温とISCV開度の関係

暖機時制御

始動時制御終了後、冷却水温に応じてISCVを徐々に閉じ、ファーストアイドル回転速度を制御する。

予測制御

ATミッションのシフトレバーを切り替えたとき、エアコンスイッチを切り替えたとき、電気負荷が大きく変化したときなどは、エンジンに掛かる負荷に変化が生じるため、アイドル回転速度も変化する。

したがって、これらの信号を検出した直後には、回転の変動が生じる前に、あらかじめISCV信号を送っておき、必要な空気量を予測してISCV開度を変化させてアイドル回転速度を適正に保つようにしている。

フィードバック制御

暖機後のアイドル回転速度が目標回転速度と差がある場合に、ISCVに信号を送り目標アイドル回転速度に再制御する。

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