サスペンションシステム

サスペンションシステム

目次

  1. サスペンションの役割と種類
  2. 空気入りタイヤの発明
  3. ホイールアライメントとサスペンションの役割
  4. リジットアクスルとインディペンデントサスペンション
  5. リジットアクスル
  6. インディペンデントサスペンション

サスペンションの役割と種類

人が乗るクルマが世界ではじめて馬車という形で世に出たばかりの頃、その馬車にはサスペンションの役割を担うものとしてすでにスプリングが使われていた。

ダイムラーの四輪車第1号は、馬車にガソリンエンジンを取り付けたものであったので、クルマは最初からサスペンションを搭載していたということになる。

サスペンションといっても、当時は、現在の自動車でも使われているリーフスプリングを上下対称に重ねた楕円型をしたリーフスプリング形式のものだけであった。つまり、車軸(アクスル)の動きを安定させるものがこのリーフスプリングだけなので、車体に対してふらふらし、また、車輪の位置決めなども正確ではなかったので、非常に不安定であった。

また、この初期の頃の自動車は速度も低く、ゴムタイヤは発明すらされておらず、鉄輪が車輪代わりだったので、グリップ力がはるかに低く、車輪が車体側に伝える力も低かったので、サスペンションに求められる性能はあまり高度なものでなくても良かったようだ。

空気入りタイヤの発明

自動車の進化ともにエンジンの出力が向上し、クルマを使う人々がクルマを高い速度で使うようになると、それに合わせて、新しい車輪として空気入りタイヤが発明された。空気入りタイヤは乗り心地を劇的に向上させ、路面に対するグリップ力も大幅に向上させた。

したがって、クルマの重心を下げると共に、車輪の位置決め(ホイールアライメント)を確実なものにする必要が生じてきたのである。

ホイールアライメントとサスペンションの役割

サスペンションは路面からの衝撃を吸収することが第一の役割であるが、そのとき車輪が上下して車輪の向きや傾きが変化するので、車輪を正しく路面に接地させることが第二の役割である。つまり、一般的にいえば、タイヤは路面に対してできるだけ垂直であることが車体にとって望ましい状態であるといわれている。

このタイヤを路面に対して垂直に保つという面では、サスペンション形式の中では、リジットアクスル式(車軸懸架式)が優れた面を持っているが、乗り心地や操縦安定性の面で不利であるデメリットがあるため、現在では乗用車にはほとんど使われなくなった。(一方で、高荷重に耐えうることを必要とする大型トラックではほとんどのクルマに採用されている。)

また、タイヤが現在のように高性能化されて太くなってくると、キャンバーやトレッドのわずかな変化でも車両の挙動に影響を及ぼすようになってきた、そこで、ダブルウィッシュボーン式やマルチリンク式のサスペンションが開発され、よりレベルの高い車輪の動きが可能になった。

その他にも、乗り心地向上のためにスプリングを柔らかくした場合。加速時や制動時の頭上げや頭下げなどの車体の姿勢変化が大きくなるので、車体の姿勢変化の抑制や制御も役割のひとつに数えられるようになってきた。

サスペンションの役割の大前提として、車体の重量を支持することは最も基本的な役割のひとつであることも重要である。

以下にサスペンションの基本的な役割を示す。

  • 車体重量の支持
  • 路面からの衝撃吸収
  • 車輪の路面反力を車体に伝達
  • タイヤを正しく路面に接地させる
  • 車体姿勢の制御とホイールアライメントの制御
  • 車輪の振動の抑制
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リジットアクスルとインディペンデントサスペンション

サスペンションには大きく分けて車軸懸架式(リジットアクスル)と独立懸架式(インディペンデントサスペンション)の2つがあり、現在の乗用車のほとんどは前輪、後輪ともに独立懸架式(インディペンデントサスペンション)を採用している。

また、トラックの多くは前輪、後輪共にリジットアクスルを採用していて、乗用車もFR方式が主流だった頃には、多くの車種が後輪にリジットアクスルを、前輪にインディペンデントサスペンションを採用していた。

リジットアクスル

リジットアクスルは、頑丈なアクスル(車軸)で両輪が強固につながれているため、タイヤが路面に対して垂直に近い状態、つまりタイヤの性能を十分発揮させるためには理想的な状態を保つという大きなメリットがある。

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図1:片輪が乗り上げたときに発生する力

 

しかし、片輪が路面などに乗り上げると、もう片方の車輪も影響を受け、設置状態が変化して、両輪とも傾くようになる。(図1参照)

一般的に、高速回転をする円盤などの回転体は、その回転軸を一定に保とうとする働き(ジャイロ効果)がある。このジャイロ効果には、この一定に保とうとする回転軸を強制的に傾けると、そのムリに傾けた方向から回転方向に90°進んだ方向に傾こうとする性質がある。(図2参照)

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図2:プレセッション効果

これをプレセッション効果とよんでいるが、この効果によって図1のような場合は、車輪の向きは、車輪が傾いた方向に変化しようとする。例えばバイクなんかだと、車体が傾いた方向にステアリングがキレることになるので、車体を起こそうとする力が働いて直進性を保つ働きがあるといわれている。

図1のように、片輪が突起などに乗り上げると、前輪の場合はプレセッション効果によって突起と反対側の傾いた方にハンドルが取られる結果となる。もう一方の車輪も傾くことによって接地状態が変化し、キャンバスラスト(タイヤが傾いた方向に働く横向きの力)によって傾いた方向に進もうとする。つまりは、クルマが思わぬ方向に進もうとすることで、直進性が妨げられることになる。

ジャイロ効果は、車輪の回転速度が高くなるほど、(車速が高くなるほど)タイヤの外径が大きくなるほど比例して大きくなる。したがって、後輪側はハンドルが取られるなどという現象はないのだが、多少左右に振られることがある。

また、高速で凹凸に遭遇すると、リジットラックはそれ自体に重量があるため、左右の車輪が交互に上下に振動する現象(地団太を踏むような現象)を引き起こして車輪の接地性が悪化し、高速での安定性が悪化してしまうことがある。

ばね下荷重に関しては、ばね下荷重が多少重くても路面がなめらかな場合はあまり弊害が現れないが、凹凸があるとタイヤが時に路面から離れて飛び上がり、路面との接触を保ち続けることができなくなってしまう。したがって凹凸のあるカーブを高速で通過することができなくなってしまう。こういった場合には、ばね下荷重が小さいインディペンデントサスペンション有効になってくる。

また、重いばね下荷重に柔らかい(ばね定数の小さな)スプリングを組み合わせると、車輪が暴れやすくなるので、柔らかいスプリングの使用は制約を受けることになる。

乗り心地はばね上(車体)の振動の振幅よりも加速度に左右されるが、加速度に質量を掛けると力になる。

ここで、質量をm 加速度をa 力をfとすると
$$ f=ma $$
が成立する。

車輪を上下に動かそうとする力はスプリングを介して車体に伝えられることになるので、ばね下荷重が小さければ、その分車体に伝えられる衝撃も小さくなることになる。

$$ ばね下荷重×ばね下加速度=ばね上荷重×ばね上の加速度 $$

$$ ばね上の加速度=ばね下の加速度×\frac{ばね下荷重}{ばね上荷重} $$

また、衝撃が小さくなればそれだけ車体に必要な強度も小さくなるので、軽量化も可能となる。

乗り心地のフィーリングでは、ばね下荷重が大きいと突起などを通過するときに突き上げる衝撃が大きく、ばね下荷重が小さいとショックが軽く感じられる。

その他では、トラックや昔の乗用車が採用していたリーフスプリングとリジットアクスルの組み合わせでは、前輪の場合は左右にステアリングを操舵する必要があるので、スプリングの取り付け位置を内側に寄せなければならない。(図3参照)

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図3:リーフスプリングとリジットアクスルの問題点

ところが、リジットアクスルの場合には、ロールに対抗する力はスプリングの取り付け位置で発生することになる。その場合、ロールのしにくさを表すロール剛性は両側2つのスプリングの距離の二乗に比例するので、スプリングの位置を位置を内側に寄せるとロール剛性の低下が著しくなってしまい、ロールしやすくなってしまう。

インディペンデントサスペンション

FF方式の乗用車において、前輪にインディペンデントサスを採用すると、邪魔なアクスルがなくなるので、スペースを確保することができ、エンジンの取り付け位置を前輪の中心より前へ移動させて搭載することができる。その結果、室内スペースを格段に広く取ることができるようになる。

インディペンデントサスペンションを採用すると、ばね下荷重がFF車の前輪では約3分の2、FR車の重いデファレンシャルギヤを搭載した後輪では約2分の1となる。つまり、インディペンデントサスペンションを採用することで、後輪側のばね下荷重を大幅に軽量化させることが可能ということになる。

しかしながら、FR車の後輪にインディペンデントサスを採用しようとすると、複雑なサスペンションアームの他にジョイントを持ったドライブシャフトが必要になるので、開発の難易度が高くなり、コストパフォーマンスも悪くなる。

まとめると、インディペンデントサスペンションは操縦安定性の向上に効果が大きい前輪側が先に普及し、平均的な走行速度の向上や、車両全体の性能の向上に伴って後輪側にも採用されるようになった。単に乗り心地向上というよりも、操縦安定性の向上を目的としたものであると言える。

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