スバルインプレッサSTi マニュアルトランスミッション資料

スバルインプレッサSTi マニュアルトランスミッション資料

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車両スペック

  • 年式:2000年
  • 型式:GDB
  • エンジン型式:EJ207
  • トランスミッション型式:TY85

目次

6速マニュアル・トランスミッションと操作システムの概要

STi仕様DOHCハイパワーターボエンジン(最大出力206kW-最大トルク373Nm)のトルクを伝達制御して走行性能の向上を図るため、フルタイム4WD6速マニュアル・トランスミッションを採用し、合わせて操作システムを改善している。操作システムとして、エンジンの持つハイパワーに対応すべく、クラッチ容量増大とクラッチ油圧計改善により発進性の向上を図っている。

フルタイム4WD 6速マニュアル・トランスミッションの主な特徴
  • 1速、3速、リバースにダブル・コーン・シンクロメッシュ機構を、2速にトリプル・コーン・シンクロメッシュ機構を採用し、耐久性、操作性の向上を図っている。
  • メイン・ケースは同割りタイプとし剛性の向上を図っている。
  • リバース・ギヤは常時かみ合い方式を採用している。
  • オイル・ポンプをメインケースに配置している。
  • フロント・デフにトルク感応型カム式LSDを、センター・デフには、ドライバーズ・コントロール式またはビスカス・カップリング式を装備している。
  • ギヤ・シフト・システムには、フロア・シフト平行リンク式、スライダ方式リバース誤操作防止機構を採用している。
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図1:トランスミッション内部

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    クラッチ及び操作システム

    クラッチ・ディスクを従来型の外径×内径:230mm×150mmから240mm×160mmにクラッチ容量を増大させている。クラッチ操作システムは油圧プル式で、急激なクラッチ結合を防ぐために、油圧回路にオリフィスを設けている。

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    図2:油圧クラッチコントロールシステム

    油圧クラッチコントロール・システム

    クラッチ・マスタ・シリンダはコンペンショナル型で、クラッチ・マスタ・シリンダとクラッチ・オペレーティング・シリンダ間の油圧回路にクラッチ・オリフィスを追加して、クラッチ接続時のショック・トルクの低減を図るとともに、オリフィス内部に形状記憶合金製のコンプレッション・スプリングを設けて、低温時にオリフィスによるクラッチ作動遅れが発生しないように油圧回路を確保している。

    • 常温時作動

    クラッチ・オリフィスは、クラッチ・オペレーティング・シリンダに一体配置され、オリフィス・リテーナとオリフィスバルブ及びコンプレッション・スプリングで構成されている。オリフィスバルブは通常コンプレッション・スプリングNo1でボデーに押しつけられている。

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    図3:クラッチオリフィス常温時作動

    • 低温時作動

    低温時は、形状記憶合金製のコンプレッション・スプリングNo1が収縮してバネ作用がなくなり、コンプレッション・スプリングNo2によりオリフィス・リテーナに押しつけられて、十分な広さのオイル通路を確保している。

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    図4:クラッチオリフィス低温時作動

    6速トランスミッションについて

    仕様図
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    図5:トランスミッション仕様図

    変速機構

    変速機構はメイン・シャフト、ドライブ・ピニオンシャフトによる主変速ギヤを平行に2軸配置し、常時かみ合い式の前進6段、後退1段で、リバースはリバース・アイドル・ギヤを介して回転方向を逆にする方式である。

    ギヤはすべてヘリカルギヤを採用し、ギヤ諸元、歯幅の見直しと主変速ギヤ中心間を85mmに拡大してギヤ強度の向上を図っている。

    • シンクロメッシュ機構

    シンクロメッシュ機構は、1速〜3速とリバースにマルチ・コーン・シンクロを採用し、シフト操作力の低減を図っている。リバース・シンクロはリバース・アイドル・ギヤ部に配置している。

    また、2速〜6速に非対称ギヤ・ドッグえお採用し、操作性の向上を図っている。

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    図6:変速ギヤとコーンのタイプ

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    図7:シンクロメッシュ機構内部

    • リバース・ギヤ

    リバース・ギヤは常時かみ合い化に伴い、リバース・アイドラ・ギヤNo1にシザース・ギヤを装置し、静粛性の向上を図っている。

    リバース・アイドル・ギヤは、リバース・アイドル・ギヤN01、シザース・ギヤ、スプリング・フリクション・プレートとスナップリングで構成されている。

    駆動側ギヤをスプリング力を受けたシザース・ギヤとアイドラ・ギヤで挟み込むことにより、ギヤのバックラッシュを0にしてギヤのかみ合いによるガタ打ちを防止している。

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    図8:リバースギヤ

    シフト及びセレクト機構

    シフト・パターンは、前進6段、後退1段でフロア・シフト方式であり、各ロッド支持部にスライド・ボール・ベアリングを採用し、シフト・ディテント機構部にボール内蔵型プランジャを装着することによりフリクションの低減、操作性の向上を実現している。

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    図9:シフトフォーク

    セレクト機構部は平行リンク方式として、短いセレクト・ストロークを実現している。インタロック(二重かみ合い防止)機構は、ブロック・タイプとして、リバース・チェック(リバース誤作動防止)機構にスライダ引き上げタイプを採用している。

    • シフト・ディデント機構及びロッド支持構造

    シフト・ディデント機構はチェック・ボールによってギヤ抜けを防止している。チェック・ボール部には背面に小さなボールが埋め込まれている。

    各ロッド支持部にはスライド・ボール・ベアリングを採用している。

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    図10:シフトディデント機構(ギヤ抜け防止)

    • セレクト・リターン機構

    セレクト・リターン機構は、シフタ・アーム・シャフト、セレクタ・アーム(No1および2)、ストライキング・ロッド及びセット・スプリング(ニュートラル)で構成されている。

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    図11:セレクトリターン機構

    セレクト・リターン力は、セレクタ・アームの動きに対応し、セレクタ・アーム上の支点によりセット・スプリング(ニュートラル)が広げられ、そのスプリングの戻り力によって発生する。

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    図12:セレクタアームの動き

    • インタロック機構
    インタロック機構は、ブロック・タイプでレイアウト上リバースは独立した配置になっている。
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    図13:インタロック機構

      • 通常セレクト時
    セレクトされたアーム以外はインタロックブロックがかみ合い、ロックされる。
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    図14:通常セレクト時

      • 中間シフト時(2重かみ合い時)
    2つのシフタアームがセレクトされる位置では、すべてのシフタアームがインタロックブロックによってロックされる。
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    図15:中間シフト時

    • リバースチェック機構
    シフト・レバー上のスライダを引き上げることによりリバース・チェック・ケーブルを介してトランスミッション内のリバース・チェック機構を操作する構造で、リバース・チェック機構はトランスミッションのエクステンション・ケース部に配置している。
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    図16:リバースチェック機構

      • 5速または6シフト時

    5速または6速側へセレクトするとセレクタアームはプランジャと接触する。プランジャはピンによりインタロックされているので、セレクタアームの回転が規制される。

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    図17:5速または6速シフト時

      • リバースシフト時
    リバースへはスライダ(シフトレバー)を引き上げることにより、リバースチェックケーブルを介してトランスミッション側のリバースチェック機構のロックが解除されるため、セレクタアームはプランジャを押し上げながら回転し、リバースへのセレクトが可能になる。
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    図18:リバースシフト時

    4WDトランスファ装置(センタ・ディファレンシャル)

    4WDトランスファ装置は、トランスミッション後方に設け、前輪を駆動するドライブ・ピニオン・シャフトと後輪を駆動するトランスファ・ギヤの間にセンタ・ディファレンシャルLSDをコンパクトに収めている。このLSDにはビスカスカップリング方式とドライバース・センタデファレンシャルの2種類があるが、ここでは、ドライバース・センタデファレンシャルについて解説する。
    ドライバーズ・コントロール・センタデファレンシャル
    基本構造はセンタ・デファレンシャルに遊星歯車方式を、作動制限装置は電磁式圧着可変制御多板クラッチとし、前後駆動配分を45:55とした。また、6速か対応のため全長を短縮しプラネタリ・ギヤ、多板クラッチの外径を縮小している。
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    図19:ドライバーズコントロール・センタディファレンシャル

    1. 電磁コイルに電流が流れると、電磁石、ディファレンシャルケース、パイロット・クラッチ、アーマチュア間に磁界が発生する。
    2. パイロット・クラッチ、アーマチュアは次期誘導作用により電磁石に吸引されディファレンシャル・ケースの回転トルク(パイロット・トルク)がカムNO2を回転させる。
    3. カムNO2が回転するとカムNO1と回転が異なるので、ボールが転がりスラスト力が発生し、軸方向に移動可能なプラネタリ・ギヤをスライドさせてメイン・クラッチを押しつけ、差動制限トルクを発生させる
    4. 磁界の強さは流れる電流量に比例して大きくなるので、差動制限トルクも電流量に比例して大きくなる。また、電流量は、ドライバがコントロール・スイッチを操作して電流量を5段階に変えることが出来る。
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    図20:ドライバーズコントロール・センタディファレンシャルの作動

    フロント・デファレンシャル

    フロント・デファレンシャルは、高出力対応のためサイズの大きいハイポイドギヤ(R180)を採用している。また、フロント・ディファレンシャルにトルク感応型カム式LSDをメーカー・オプションで設定している。
    トルク感応式カム式LSD
    構造はリヤ・デファレンシャルに採用しているトルク感応型カム式LSDと同様で、トルク・バイアス・レシオの選択幅が大きい特徴を持っている。
    直進走行中は左右のフェース・カム間に相対回転が発生しないので、ドライブ・ギヤからの入力トルクはカム・フォロワの側面からフェース・カムに伝えられる。
    旋回やスリップなどによりフェース・上欠に相対回転が発生すると、カム・フォロワが左右に往復運動しながら、フェース・カムにトルクを伝達する。
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    図21:トルク感応型カム式LSD

    トランスミッション・潤滑システム

    オイル・ポンプをメイン・ケースの後部に設け、メイン・シャフト、ドライブ・ピニオン・シャフト、トランスファなどの潤滑通路へ圧送し、各部を強制潤滑するとともに、オイル・チャンバを設けて攪拌抵抗を低減し、効率の向上を図っている。
    オイル・ポンプは、薄型トロコイド式で、センタ・デファレンシャル・ケース一体のギヤを介して駆動する方式で、吐出側には、レギュレータ・バルブとリリーフ・バルブを配置している。
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    図22:トランスミッション潤滑システム

    引用元・参考文献・Webサイト

    このサイトのテキストは一部以下の著作・出版物・Webサイトより引用させて頂きました。
    ・「車両運動性能とシャシーメカニズム」宇野高明(著) グランプリ出版
    ・ 整備主任者研修資料(技術編)自動車整備新技術 学科研修用 一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会(著) ※出版年不明


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