1996年式:ホンダ・シビック 型式:E-EK3 エンジン型式:D15B トランスミッション型式:M4VA 走行距離:65,000km
マルチマチック・トランスミッションのトラブル
停止状態から発進したときにトランスミッションからショックが発生する。また走行中はショックは発生しないというトラブルで、その症状は、バッテリーを交換してから発生する。とのことであった。
スタートクラッチ
このマルチマチック・トランスミッションには、トルクコンバータの代わりにスタートクラッチが取り付けられている。
スタートクラッチの制御は、スタートクラッチ・コントロールソレノイドで制御していて、ブレーキペダルを踏んでいるときは弱クリープ状態、ブレーキペダルを離した時は強クリープ状態にしてスムーズな発進を確保するようになっている。(参考資料1を参照)
なので、バッテリーまたはバックアップヒューズを外すとスタートクラッチコントロールのフィードバック用信号のメモリが消去されてスムーズな発進ができなくなる。これが今回の発進時ショックの原因である。
したがって、このフィードバック用信号のメモリ方法(参考資料2)にしたがって作業を実施することによって、発進時のショックを小さくして正常に戻すことができる。
今回のトラブルの原因としては、バッテリーを交換したことによりフィードバック用信号のメモリが消去されたため、発進時にトランスミッションからショックが発生したと考えられる。
バッテリー交換やダイアグノーシス・コード消去などの際にバッテリー端子を外した際は参考資料2の作業が必要になる。以下マルチマチック・トランスミッションの概要とスタートクラッチのフィードバック用信号のメモリ方法を示す。
参考資料1:ホンダ・マルチマチック・トランスミッション概要
ATコントロール・ユニットの入出力と制御
運転者の意思及び各種センサからの情報がATコントロール・ユニットに入力されると、状況に応じてソレノイドを作動させ、変速制御、側圧制御、発進制御を行う。
- 運転者の意思の希望する変速範囲がセレクトレバーで選択されると、シフトポジション信号がATコントロール・ユニットに入る。
- 同時にセレクトレバーとコントロールケーブルで結ばれたマニュアルバルブが作動し、フォワードクラッチまたはリバースブレーキを接続する。
- この状態でエンジン動力はドライブプーリーに伝わり、金属ベルトを介してドリブンプーリーに伝わる。フォワードクラッチ/リバースブレーキが作動後にATコントロール・ユニットの発進制御によりスタートクラッチ・コントロールソレノイドを作動させ、スタートクラッチが接続し走行する。
- 走行中はATコントロール・ユニットが現在のエンジン回転・スロットル開度・車速などの情報により変速制御用ソレノイド及び側圧制御用ソレノイドを作動させ、エンジン回転値が目標値になるようにドライブプーリーとドリブンプーリー比を制御する。
発進制御
走りと燃費の両立や変速ショックのないスムーズな発進の確立のため、スタートクラッチの伝達容量をクラッチピストンにかかる油圧で制御している。
スタートクラッチにかかる油圧はスタートクラッチ・コントロールバルブを経由して供給されるが、スタートクラッチ・コントロールバルブをATコントロール・ユニットにより駆動されるスタートクラッチ・コントロールソレノイドで制御し、クルマの状況に合った油圧が供給される。これにより、N、Pポジション以外ではトルクコンバータ同様の発進のスムーズさと最適クリープを確立している。
また、ATコントロール・ユニットは発進時のショックやエンスト防止のため、Nポジション時のマニホールド負圧(PB)を記憶し、Dポジションにシフトしたときに一定量のPB変化になるようにスタートクラッチにかかる制御圧をコントロールしている。
最適クリープの確保ではアイドル振動の低減や燃費向上のため、Dポジション(D、S、Eモード)でブレーキペダルを踏んでいるときは弱クリープにし、ブレーキペダルを離した時には強クリープにしてスムーズな発進を確保している。
参考資料2:スタートクラッチ・コントロール
フィードバック用信号のメモリ方法
- 適用車種リスト1
シビック | EK3-1105659まで EK3-1105991まで(3ステージVTEC) |
シビック・フェリオ | EK3-3114078まで EK3-3114352まで(3ステージVTEC) |
インテグラ SJ | EK3-5100139まで EK3-5100209まで(3ステージVTEC) |
- バッテリー及びバックアップヒューズを外すと、スタートクラッチ・コントロールのフィードバック用信号のメモリも消去される。
- バッテリー及びバックアップヒューズを外した場合は、下記手順に従ってフィードバック信号とATコントロール・ユニットにメモリさせること。
- 下記項目のいずれか一つでも該当する場合は、フィードバック用信号をATコントロール・ユニットに目盛りさせること。
- ATコントロール・ユニットの交換
- トランスミッションAssyの交換
- スタートクラッチAssyの交換
- ロアバルブボディAssyの交換
- エンジンAssyの交換またはOH
- 手順
- パーキングブレーキを確実に掛け、タイヤに輪止めをする。
- エンジンを始動して、ラジエータファンが2回作動するまで暖機運転をする
- ラジエータファンが再度作動し、停止後速やかに(60秒以内)にNポジションにいれ、下記条件でエンジンを1分間アイドリングする。
- ブレーキペダルを踏む
- ACスイッチOFF
- ファンスイッチOFF
- ライティングスイッチOFF
- その他のSW OFF可能な電装品はすべてOFFにする(無負荷状態)
- シフトポジションをDにして、3と同じ条件で2分間エンジンをアイドリングする。
- エンジン水温が十分に上がっていてもATF温度が40℃以下の時は、フィードバック用信号をATコントロールユニットに記憶させることはできない。
- 正しいスタートクラッチコントロールになるまで作業を行うこと
- ホンダPGMテスタにより、フィードバック用信号がATコントロール・ユニットに目盛りされたことが確認できる。
- 適用車種リスト2
シビック | EK3-1105660より EK3-1105992より(3ステージVTEC) |
シビック・フェリオ | EK3-3114079より EK3-3114353より(3ステージVTEC) |
インテグラ SJ | EK3-5100140より EK3-5100210より(3ステージVTEC) |
- この機種は、バッテリ及びバックアップヒューズを外しても、スタートクラッチ・コントロールのフィードバック用信号のメモリは消去されない。
- 下記項目のいずれか一つでも該当する場合は、フィードバック用信号をATコントロール・ユニットに目盛りさせること。
- ATコントロール・ユニットの交換
- トランスミッションAssyの交換
- スタートクラッチAssyの交換
- ロアバルブボディAssyの交換
- エンジンAssyの交換またはOH
- 手順
- エンジンを始動して、ラジエータファンが2回作動するまで暖機運転をする。
- ラジエータファンが再度作動し、停止後速やかに(60秒以内)にNポジションにいれ、下記条件でエンジンを1分間アイドリングする。
- ブレーキペダルを踏む
- ACスイッチOFF
- ファンスイッチOFF
- ライティングスイッチOFF
- その他のSW OFF可能な電装品はすべてOFFにする(無負荷状態)
- 平坦路を走行して車速が約60km/hになったら、アクセルペダルを離してブレーキを踏まずに5秒以上減速する。以上でフィードバック用の信号のメモリは完了。
- メモリ完了後、走行テストをしてエンストや発進不良がないことを確認する。
- エンストや発進不良がある場合は、再度フィードバック信号のメモリを行うこと。
- ホンダPGMテスタにより、フィードバック用信号がATコントロール・ユニットに目盛りされたことが確認できる。