電子制御装置式ガソリンエンジンの点検整備
エンジンを良好な状態に維持し、その性能を十分に発揮するためには、点検整備などによる点検・調整作業が必要である。また、これらの性能を維持し、正確な作動が要求される各種機能部品も経年劣化により、機械的・電気的な機能が低下し、これが要因となってエンジン不調などの現象が発生することがある。特に、現代の自動車に使用される機能部品は、従来からの機械的なものに電子制御システムや、コンピュータシステムなどに関連したものが数多く追加されている。その用途も例えば車速センサのようにエンジン関係とシャシ関係で共用するものもあり、さらにはハイブリッド関連システムで構成されるものもあり、その使用方法も多様化している。
しかし、技術革新は進んでも、エンジンに要求されることは、常に静粛なアイドリング、鋭い加速、高出力、そして少ない燃料消費に加えて、清浄化され、削減された排出ガスなどいくつかの基本的な要件である。
これらを実現するには、ガソリンエンジンの3要素といわれている「強い圧縮圧力」「適正な点火時期と強い火花」「適切な混合気」が不可欠である。
したがって、ここでのエンジン点検・整備には、実際に不具合の現象が発生していることを前提に、これらエンジンの3要素に基づく基本点検方法と、電子制御装置の点検方法を主体とし、自己診断システムを始めとして、オシロスコープを活用した波形確認、各センサの電圧・抵抗点検、アクチュエータの作動点検方法などについて解説する。
目次
- 基本点検
- 簡易燃圧点検
- フューエルポンプの点検
- インジェクタ系統の点検
- 自己診断システムの点検
- 回転信号系統の点検
- スロットルポジションセンサ系統の点検
- 水温センサ系統の点検
- イグナイタ系統の点検
- 点火確認信号系統の点検
- 点火指示信号系統の点検
- アイドル回転速度制御系統の点検
基本点検
ガソリンエンジンの3要素に関する<基本点検>として下記5つのの点検項目を実施し、必要に応じてそれに関連した点検を行っていく。その具体的なフローチャートを「エンジン始動不良」「出力不足・加速不良」「アイドリング不安定」の3つの場合に分けて、下記に示すので、各場合でダウンローそして参考にされたい。なお、フローチャートはあくまで、一般的な例であるので、車種や故障・不具合の状況などに応じて、適宜読み替えたり、点検項目を追加するなりして自分なりのトラブルシューティングのパターンを作成していくと面白いかもしれない。
- 基本点検項目
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- バッテリ電圧点検
- 簡易燃圧点検
- インジェクタ作動点検
- 火花点検
- アイドル回転速度及び点火時期の点検
- フローチャート(ダウンロードリンク)
簡易燃圧点検
フューエルポンプ作動時に、図2のようにフューエルフィルタとデリバリパイプ間のホースをつまんだとき、ホースに張りまたは脈動があることを確認する。
張りまたは脈動が感じられない場合には、燃圧計を用いて点検を行う。
燃圧点検
- エンジンを始動し、フューエルポンプリレーを外して、フューエルポンプの作動を止める。
- エンジンが停止した後、2〜3回クランキングをし、配管中の燃料を消費させる。
- 図3のように、フューエルフィルタとデリバリパイプ間に燃圧計を接続した後、フューエルポンプリレーを取り付ける。
- 再度エンジンを始動させ、プレッシャレギュレータのバキュームホースを接続したときと取り外したときの燃圧がそれぞれ規定値にあることを確認する。(通常は取り外したときの燃圧の方が若干上昇値を示す。)
- 燃圧が規定値にない場合には、プレッシャレギュレータ、配管の詰まり、ホースのねじれなどを点検すると共に、次に示すフューエルポンプ系統の点検を行う。(=>フューエルポンプ系統の点検)
フューエルポンプ系統の点検
電源点検
イグニッションスイッチをOFFにしてフューエルポンプリレーを取り外す。次に、イグニッションスイッチをONにして、図4のようにフューエルポンプリレーの電源側端子とアース間の電圧を測定し、規定値にあることを確認する。
制御回路の点検
フューエルポンプリレーを接続してイグニッションスイッチをONにしたとき、図5のようにフューエルポンプリレー端子とボデーアース間の電圧を測定し、規定値にあることを確認する。
規定値にない場合には、イグニッションスイッチをOFFにしてフューエルポンプリレーを取り外し、図6のようにコントロールユニットのフューエルポンプリレー端子とフューエルポンプリレー端子間の導通状態を点検して、不具合がある場合には修正する。
また、フューエルポンプのコネクタ及びフューエルポンプリレーを取り外したとき、図7のようにフューエルポンプの電源端子とフューエルポンプリレー端子間の導通状態を確認する。
アース回路の点検
図8のように、フューエルポンプのアース端子とボデーアース間の導通状態を点検し、不具合がある場合には修正する。
単体点検
フューエルポンプのコネクタを外して、図9のようにコネクタ両端子間の抵抗を測定し、規定値にあることを確認する。また、電源端子をバッテリのプラス側に、アース端子をマイナス側に直接接続接続(直結)して、フューエルポンプが作動することを確認する。
それぞれに不具合がある場合には、フューエルポンプをアッセンブリ交換する。
インジェクタ系統の点検・作動点検
- エンジンを始動し、サウンドスコープなどにより作動音を確認するか、図10のように各気筒ごとにインジェクタのコネクタを1つずつ外したときに、エンジン回転速度が一瞬下がることを確認する。
- エンジン回転速度が下がらないで、なおかつ、作動音がしない場合には、以下に示すインジェクタ系統(本体系統)の点検を行う。
電源点検
インジェクタのコネクタを外してイグニッションスイッチをONにし、図11のように各インジェクタのハーネス間のコネクタの電源端子とアース間の電圧を測定したとき規定値にあることを確認する
噴射信号の点検
エンジンを始動し、インジェクタのコネクタを取り付けた状態で,図12のようにオシロスコープを各インジェクタの噴射信号端子とアース間に接続して噴射信号波形を観測し、正常信号波形と比較する。
図13は、アイドリング時の正常噴射信号波形を示したもので、電圧が0V近くにまで降下している期間がインジェクタONの時間、すなわち噴射時間で、図の例では、約2ms(2/1000秒)を表している。
噴射信号波形が正常でない場合には、イグニッションスイッチをOFFにして、図14のようにコントロールユニットと各インジェクタ間の噴射信号回路のハーネスの導通状態を点検し、不具合がある場合には修正する。
単体点検
インジェクタのコネクタを取り外し、図15のように各インジェクタの電源端子と信号端子間の抵抗を測定し、規定値にあることを確認する。規定値にない場合にはインジェクタをアッセンブリ交換する。
自己診断システムの点検
自己診断システムの点検は、基本点検を実施した後に行う。
電子制御システムの関係では、フェイルセーフ機能より、実際に不具合が発生しても故障の現象として現れない場合があるので、その車種に応じた自己診断コード表により確実に実施する必要がある。
表1は自己診断コード表の一例である。
自己診断システムが異常コードを示した場合には、表示した系統に断線又は短絡などが推定できる。以下、表1のコード表を一例として、関連する点検について解説していく。
回転信号系統の点検
自己診断システムが異常系統の一例である「回転信号系統」を表示した場合には、クランク角度信号、又はクランク角度基準位置信号が一定時間入力されないとき、及び各信号に歯抜けがある場合に表示されるため、これらの系統を点検する必要がある。
入力信号の点検
エンジンを始動して、図16のようにオシロスコープをコントロールユニットのクランク角基準位置信号端子又はクランク角度信号端子とアース間に接続して入力信号波形を観測し、正常信号波形と比較していく。
図17は、アイドリング時のクランク角センサ及びカム角センサの正常信号波形を示したものである。
回路の点検
- アース回路の点検
コントロールユニット、クランク角センサ、カム角センサのコネクタを取り外し、図18のようにセンサとコントロールユニットのアース回路の導通状態を確認する。
- 入力回路の点検
コントロールユニット、クランク角センサ、カム角センサのコネクタを外し、図19のようにクランク角度信号端子とクランク角センサ間およびクランク角度基準位置信号端子とカム角センサ間のハーネスの導通状態を確認する。
また、図のようにアース回路との絶縁状態を確認する。
単体点検
クランク角センサおよびカム角センサのコネクタを取り外し、図20のように各センサの信号端子とアース端子間の抵抗を測定して、規定値にあることを確認する。
スロットルポジションセンサ系統の点検
自己診断システムが異常系統「スロットルポジションセンサ系統」の場合には、スロットルポジションセンサ系統の回路内断線又は短絡が一定期間続いたときに表示されるため、これらの系統を点検する必要がある。
電源点検
スロットルポジションセンサのコネクタを取り外して、イグニッションスイッチをONにし、図21のようにスロットルポジションセンサの電源端子とボデーアース間の電圧を測定し、規定値にあることを確認する。
回路の点検
コントロールユニット及びスロットルポジションセンサのコネクタを外し、図22のように電源端子、スロットル開度端子、アース端子とスロットルポジションセンサ間のハーネス導通状態を確認する。
また、図のようにハーネス間の絶縁状態を確認する。
単体点検
スロットルポジションセンサのコネクタを外し、図23のように電源端子とアース端子間の抵抗を測定し、規定値にあることを確認する。
また、スロットル開度端子とアース端子間のスロットルを全開、全閉したときの抵抗を測定して、規定値にあることを確認する。
水温センサ系統の点検
自己診断システムが異常系統「水温センサ系統」を表示した場合には、水温センサ系統の回路の断線又は短絡があるときの表示されるため、これらの系統を点検する必要がある。
電圧点検
イグニッションスイッチをONにして、図24のように水温センサの信号端子とアース端子間の電圧を測定し、規定値内にあることを確認する。
回路の点検
コントロールユニット及び水温センサのコネクタを外し、図25のように信号端子及びアース端子と水温センサ間のハーネス状態を確認する。また、図のようにアース回路との絶縁状態を確認する。
単体点検
水温センサのコネクタを外し、図26のように水温センサの信号端子とアース端子間の抵抗を測定して、規定値にあることを確認する。
イグナイタ系統の点検
自己診断システムが異常系統「イグナイタ系統」を表示した場合には、イグナイタ系統の点火指示信号が出力されているにもかかわらず点火確認信号が一定時間入力されないとき、また、コントロールユニットとイグニッションコイル間の点火指示信号及び点火確認信号の回路の断線又は短絡があるときに表示されるため、これらの系統を点検する必要がある。
イグナイタ系統の構成部品であるイグナイタは、IC部品を多数内蔵しており、イグナイタ単体の点検が困難であるため、コントロールユニットやハーネスなどを点検し異常が無いことを確認した後、イグナイタの異常と判断し部品の交換を行う。
ここでは、ダイレクトイグニッションシステムの第1気筒を例として解説する。
火花点検
点火指示信号系統または点火確認信号系統のどちらかに異常があるかを確認するために火花点検を行う。火花点検を実施し、スパークプラグに火花が飛ぶ場合には点火確認信号系統に異常が、火花が飛ばない場合には点火指示信号系統に異常があるため、系統別に点検を行う。
点火確認信号系統の点検
回路の点検
コントロールユニットおよびイグナイタのコネクタを外し、図27のように点火確認信号端子とイグナイタ間のハーネスの導通および絶縁状態を確認する。
電圧点検
イグナイタのコネクタを外し、イグニッションスイッチをONにして、図28のように点火確認信号端子とアース間の電圧を測定し、規定値にあることを確認する。
回路の点検及び電圧点検を実施し、異常が無い場合には、イグナイタを交換してシステムが正常になることを確認する。
点火指示信号系統の点検
回路の点検
コントロールユニット及びイグナイタのコネクタを外し、図29のように点火指示信号端子とイグナイタ間のハーネスの導通および絶縁状態を確認する。
電圧点検
イグナイタのコネクタを外し、クランキング時に、図30のようにコントロールユニットの点火指示信号端子とアース間の電圧を測定し、規定値にあることを確認する。
また、オシロスコープにより点火指示信号波形を観測し、正常信号波形と比較する。図31は、アイドリング時の点火信号波形と点火確認信号波形を示したものである。
アイドル回転速度制御系統の点検
自己診断システムが異常系統「アイドルスピードコントロールバルブ系統(ISCV)」を表示した場合には、アイドル回転速度制御系統の回路の断線又は短絡があるときに表示されるため、これらの系統の点検をする必要がある。
アイドル回転速度制御系統の構成部品であるISCV(ロータリーバルブ式)は、抵抗などの単体点検では良否判定が難しいため、コントロールユニット、ハーネスなどを点検し異常が無いことを確認した後、ISCVの異常と判断し部品の交換を行う。
電源点検
ISCVのコネクタを外し、イグニッションスイッチをONにしたとき、図32のようにISCVの電源端子とアース端子との電圧を測定し、規定値にあることを確認する。
回路の点検
コントロールユニットおよびISCVのコネクタを取り外し、図33のように信号端子とISCV間のハーネスの導通状態を確認する。
信号波形点検
図34のようにオシロスコープにより出力信号波形を観測し、正常信号波形と比較する。
図35は、アイドリング時のISCVの正常信号波形を示したもので、ISCVは図のAでONになり、Bの部分でOFFになる。
したがって、負荷などによりアイドル回転速度が低下した場合には、このAの部分(ONしている時間)を長くして回転速度を上昇させている。