サスペンションとロールセンター

サスペンションとロールセンター

サスペンションは操縦安定性の面から見ると、できるだけストロークしないことが望ましい。サスペンションシステムの中でもダブルウイッシュボーンの場合は、そういったサスペンションのストロークによる悪影響を削減するために様々な工夫をすることができる。
また、サスペンションがストロークする際に、タイヤの傾きや位置はサスペンションジオメトリーによって決まってくるが、このサスペンションジオメトリーを検討する際に重要な検討項目となるのがロールセンターを求めて検討するということである。ここでは、求めたロールセンターについて検討してみる。

目次

  1. ロールセンターについて
  2. ローリングモーメント
  3. ジャッキアップ現象
  4. スイングアクスル式のジャッキアップ現象
  5. ロールセンターは低い方が望ましいのか?
  6. 慣性主軸

ロールセンターについて

図1:ロールの中心となるロール軸

ロールセンターは、コーナリングなどで車体がロールするときに、その動きの中心となる点である。実際にはロールセンターは前輪側にも後輪側にもあるので、この前輪側のロールセンターと後輪側のロールセンターを結んだ直線をロール軸として、このロール軸を中心として車体がロール運動をすると考える。(図1参照)
ローリングモーメント

図2:ロールモーメント

コーナーなどで車体各部に作用する遠心力などの力は、代表して重心に作用すると考える。すると、車体をロールさせようとする力は、ロールするときの瞬間回転中心であるロールセンターと、遠心力の着力点である重心との高さの差がその力を生み出すことになる。
つまり、ロールセンターは車体がロールするときの動きの中心となるので、ロールセンターの位置が高い方が車体の重心との距離が短くなって、車体を傾けようとする力(回転させようとする力)、すなわちモーメントのアーム(図2におけるロールモーメントアーム)の長さが短くなる。
このとき、このロールモーメントアームの長さが短いほど、同じ横向きの力を受けても車体を傾けようとするモーメントは小さくなって、ロール運動がしにくくなる。(図2参照)
コーナリングフォースとは、遠心力に対抗してタイヤを円の内側へ向かわせる力(求心力)のことである。つまり、ロール運動が大きくなると、サスペンションも大きくストロークするので、車輪の路面に対する姿勢(アライメント)が変化して操縦安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、ロールはできるだけ小さい方が良いということになる。故に、コーナリングフォースもできるだけ小さく押さえることが理想的である。

図3:瞬間中心高さとスイングアーム長さの影響

図3:瞬間中心高さとスイングアーム長さの影響

ロール運動でだけ考えると、ロールセンターは高い方が望ましいということになる。
しかし、一概にロールセンターを高くしただけでは、タイヤの接地点Pの横方向の動きが大きくなる。(図3参照)
横方向の動き、つまりトレッド変化が大きくなると、路面の凹凸によって車体が振られ路面の凹凸によって車体が振られ、ふらつきが発生する原因となる。そこで、F1やレーシングカーなどでは、タイヤを高性能化して太くし、わずかなトレッド変化で発生する大きな横方向の力を小さくするために、ロールセンターを路面近くまで下げている例が多く見られる。車高が低くするのも、このロールセンターの位置を下げるためでもある。
ジャッキアップ現象

図4:ジャッキアップ現象

ロールセンターが高くなると、遠心力などによる横方向の力を受けたときに車体を持ち上げようとする力が大きくなる。つまり、ジャッキアップ現象が発生するようになる。(図4参照)

図5:ロールセンターが横移動しない場合

このとき、たとえコーナリングで車体がロールしたときに、ロールセンターの位置が移動できなかったとしても、つまり、図5においてロールセンターとタイヤの接地点を結んだ直線が路面となす角度のθ1とθ2が同じだったとしても、外側の車輪の荷重は遠心力による荷重移動によって増加しているので、発生するコーナリングフォースも大きくなる。
したがって、外側の車輪によって発生する車体を持ち上げようとする力が、内側の車輪によって発生する車体を引き下げようとする力より大きくなることにより、ジャッキアップ現象が発生することになる。ここでのロールセンターは、タイヤで発生するコーナリングフォースを車体が受け止めるポイントとして考えている。

図6:ロールしたときのロールセンターの移動

一般的に、車体がロールするとロールセンターは移動していく。(図6参照)

図7:ジャッキアップを小さくするロールセンターの移動

 そこで車体がロールしたときに、ロールセンターがコーナーの内側のタイヤの接地面に向かって移動していくようなサスペンションジオメトリーにすると、車体を引き下げようとする力が大きくなって、コーナーで車体が沈み込むような安定感のあるコーナリングをすることが可能となる。(図7参照)

図8:ジャッキアップを大きくするロールセンターの移動

逆に、ロールしたときにロールセンターがコーナーの外側に向かって高くなっていくようなサスペンションジオメトリーにすると、車体が持ち上げられ、ジャッキアップ現象が大きくなって不安定な挙動になる。(図8参照)
スイングアクスル式のジャッキアップ現象

図8(1):スイングアクスル式

スイングアクスル式のロールセンターは、デフ中心のやや上の高い位置にある。ロールセンターが高い位置にあると、そこから重心までの距離が短くなるので、同じ横向きの力を受けてもロール運動がしにくくなる。

図9:スイングアクスル式のジャッキアップ現象

しかし、コーナリング時でもあまり車体がロール運動しないために、その状態で速度を上げていくと、横Gがある値になったときに、あまりロール運動しないまま急激にグリップ力が失われたりする。これは車体が持ち上げられると車輪(タイヤ)のポジティブキャンバーが大きくなってますますジャッキアップ現象が大きくなるからで、これが極端になると転倒したり、転倒に至らないまでも急激にコーナリングフォースが失われてスピンに至るなど、限界域での挙動変化が激しくなってしまう。(図9参照)
こういった問題を受けて、サスペンション形式をセミトレーリングアーム式に変更して開発された車種もあった。

図8(2):セミトレーリングアーム式

ロールセンターは低い方が望ましいのか?

ロールセンターの前輪側と後輪側を結ぶロール軸については、一般的に前輪側のロールセンターの方が低い状態の、やや前下がりの特性が与えられていることが多い。これはロール運動したときに、コーナリング時の外側のタイヤの接地点はさらに外側に移動しようとするわけだが、このときタイヤの向いている方向と、実際にタイヤが進む方向とがずれて(スリップアングルが付く状態となって)一種のコーナリングフォースが発生するからである。(図10参照)

図10:スリップアングルとコーナリングフォース

後輪側のロールセンターの位置が高ければ、何らかの要素、例えば横風によってクルマの進路が乱されても、ロールしたときに後輪で発生するコーナリングフォースが前輪側より大きくなるので、車体の重心を中心に、クルマを直進状態に戻そうとするモーメントの発生して、直進状態に押し戻されて安定させるという傾向が得られる。(図11参照)

図11:後輪側のロールセンターが高い場合

慣性主軸
ロール軸は、前輪の方を低く設定するということに加えて、車体の慣性主軸と平行にすることが望ましいという考え方がある。(図12参照)

図12(1):慣性主軸

図12:ロール軸と慣性主軸

慣性主軸とは、車体の重心を通り、かつ、慣性モーメントが最小になる軸のことである。クルマの挙動の基礎となる重心を中心とした運動であるヨーイング、ピッチング、ローリング(ロール運動)の3種類の軸があり、それぞれが車体の重心で直交している。
ここで問題にしているロール軸というのは、図12(1)におけるX軸、すなわち車体の前後方向のものを指し示していている。ここでの慣性モーメントは回転体の回りにくさや止めにくさを表している。この場合の慣性主軸は、重いエンジンが車体前部の下方にある場合には、水平よりややした前下がりとなる。
ここでロール軸が慣性主軸との平行状態から外れてくると、ロールしたときに車体にヨー方向の動きが出てくるので、車体の挙動が変化してくる。
FF方式においては、後輪側をロールしにくく、前輪側をロールしやすくすることによってコーナー外側の前輪へ過度に荷重が移動することを抑制することが行われている。
こうした工夫によって、前輪側の左右を合計したコーナーリングフォースの低下を抑え、同時にコーナー内側の前輪の接地性を上げて操縦性や加速性を向上させることが可能になる。これはコーナリングフォースは大体荷重に比例するのだが、荷重が大きくなるにつれてその増加する割合が徐々に鈍化する傾向があるからである。
また、荷重の移動を抑制するために前輪側のロールセンターを下げることも行われている。これは横Gが作用したときに、ロール軸から上の部分では重心に横Gが作用し、ロール軸から下の部分はでは、ロール軸に横Gが作用すると考えるからである。この場合、ロール軸に作用するモーメントは、ロールセンターの高さに比例するので、ロールセンタを下げると前輪側のロールモーメントが相対的に低下して、荷重移動も低下するからである。
一般的に、ロールすることで発生するトレッド変化は、サスペンションがストロークしている時に起こるので、ロールが一定の角度に落ち着いてしまえば発生することはない。
以上の事から、ロールセンターの位置をどう設定するかということは、コーナリングの性能の向上というよりは、コーナリング入り口での車体の微妙なフィーリングに大きく関わってくるといえる。
引用元・参考文献・Webサイト
このサイトのテキストは一部以下の著作・出版物・Webサイトより引用させて頂きました。
・「車両運動性能とシャシーメカニズム」宇野高明著 グランプリ出版
・「サスペンションの仕組みと走行性能」熊野学著 グランプリ出版


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